1本ですべてのキーを演奏することができる「クロマチックハーモニカ」。この楽器を手づくりするのは、世界でも数人と言われている。その1人が区内在住でハーモニカ工房「クレモナ」代表の岸直孝さん(63歳)だ。その情熱とこだわりに迫った。
「一般の人から見ると、ハーモニカといえばポケットに入れて、おもちゃのように楽しむイメージだと思う。しかし、これでジャズやクラシックが演奏できる。わたしはその音に魅せられたんです」と岸さん。
岸さんがつくる「クロマチックハーモニカ」は、楽器の右横にあるレバーを押すことで、半音上の音を出すことができる。ハーモニカの種類で、マウスピースの穴が10個ある「10ホールズ」や上下2段に分かれている「復音」などは、音階の配列上、ピアノでいう黒鍵にあたる部分がないため、半音を出すことができない。そのため、ハ長調ならハ長調で1本、イ長調をやろうとしたらイ長調でもう1本というように、演奏したい楽曲に合わせて何本も楽器が必要になるという。この問題を解消しようと、およそ100年前に誕生したのが「クロマチックハーモニカ」だ。「クロマチック」は半音を意味し、どんな曲でも1本で演奏できるのが特徴だ。
中学時代から10ホールズに関心があったが、なかなか習う機会が無かったという岸さん。50歳で仕事が一段落したところで、昔を思い出してレッスンへ通い始めた。そこで出会ったのが「クロマチック」だった。講師のライブを鑑賞した際、その音の良さに感動を覚えた。同時に自分で使うものをつくりたいと思うようになっていった。
ものづくりの経験生かす
もともと電機メーカーでオーディオ設計に携わっていた岸さん。その技術を生かし、作業に取りかかり始めたのはおよそ8年前。パソコンで図面を描き、データを変換し、高精度切削機で削り出す。1つ1つ差はあるが、削るだけで最低8日、完成までには少なくとも1カ月はかかるという。当初を振り返る岸さんは「55歳から始めたCAD設計は大変苦戦しましたが、つくりたいものが明確にあったので、苦ではありませんでした」とにこやか。
岸さんがつくるハーモニカの製品名「クレモナ」は、バイオリンの名器として世界的に有名な「ストラディヴァリウス」が生まれたイタリアの小さな町の名前からとった。ビオラやチェロなど、現在も弦楽器の工房が数多くあるこの地にあやかり、「多くの人を魅了するバイオリンの音色に少しでも近づきたい」と名前に込めた思いを話す。
こだわり抜いたオリジナル
こだわりも並大抵ではない。ボディーやカバーには、密度が高く、硬質で重い木材「黒檀」を使用。音の良さを追求し、深みと厚みのある温かい音を目指し、カエデやスプルースなど、10種類以上の木材を実験した中から辿り着いたものだ。またボディー部分を厚くすることで、より大きな音を出すことができるよう工夫。このほかマウスピースとカバーの段差をなくし、息漏れを防いでいる。コーナー部分は、持ち手を安定させ、ビブラートをかけやすく、音のふくらみも増すようにしている。もちろん、奏者ごとのニーズにも応えることができる。
岸さんによると、歴史の浅いクロマチックハーモニカは、まだ一般の知名度は低いという。「つくっている人が日本にいるのだと知ってほしい。より多くの方に知ってもらい、楽器として認められ、愛好者が増えるよう、これからもつくり手として普及活動に励んでいきたい」。趣味をきっかけにハーモニカづくりに情熱を傾ける岸さんの挑戦は続く。
■ハーモニカ工房クレモナ
http://www.workshop-cremona.com/
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