太ること勧めた恋歌 粽(ちまき)に使われた「チガヤ」の葉 日本自然保護協会自然観察指導員金子昇(富岡西在住)
”わけがため わが手もすきまに 春の野に 抜ける茅花(つばな)そ 食(を)して肥えませ”(万葉集)
「あなたのために春の野で 手を休めずに摘んだつばなを食べてどうぞ肥ってください」という恋歌です。この時代は甘いものを食べて太ることが最高の贅沢だったようで、現代女性のダイエット志向に逆行しています。
茅花とは「チガヤ」の花穂のことで、初夏に野原や公園、畦(あぜ)等の日当たりのよい草原に群生するイネ科の植物です。チガヤは銀白色の細長い穂を風になびかせ、綿毛状の種子を飛ばすので、初夏に吹く湿った南風を「つばな流し」と呼びます。チガヤはサトウキビの仲間で蕾の穂や茎、根茎に甘味が含まれていることから、上のような恋歌が詠まれたのでしょう。チガヤは昔の子どものよいおやつで、江戸時代には「つばな売り」まであったといいます。
尖った葉は、邪気を払うと信じられていたため、各地の神社では、健康を祈願する大きな茅輪くぐりの神事が行われています。また5月の節句を祝う粽(ちまき)は、現在のようなササの葉ではなく、このチガヤの葉で包んだものが「茅巻き」と呼ばれていました。
チガヤは、万葉集や古典文学等にもよく登場しており、春の「つばな」、初夏の「つばな流し」、夏の「浅茅(あさじ)」(チガヤの葉が群れている様子をいう)、そして秋の「草モミジ」と四季折々の言葉で表わされてきました。
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