海洋研究開発機構の技術主任で、3月7日に金沢公会堂で地震・津波について講演する 木戸 ゆかりさん 金沢町在住 48歳
「地球」に魅せられて
○…「偉い人じゃなく、顔なじみの地元のおばちゃんが話す。それが良いんです」。金沢に住んで十数年。スキーや登山が好きという一児の母親が、公会堂の壇上で地震や津波の話をする。一見「どこにでもいそう」な彼女が講演する理由は、その職業に秘密が隠されているようだ。
○…職場は、海洋研究開発機構横浜研究所(昭和町)。そこでの仕事は、海底下を何キロも掘削する探査船「ちきゅう」を使い、大地震発生のメカニズムなど地球深部の秘密を探ることだ。息子の同級生の間では「木戸の母ちゃんは船乗り」で通っていたとか。「もちろん船にも乗りますが、やっているのは研究者のサポート。この星の内部構造やヒストリーを探ることに、一役買える仕事です」。目を輝かせながら、仕事の内容を語る姿が印象的だ。
○…初めて海底掘削船に乗ったのは大学院のとき。各国の学生や研究者と共に米国船に乗り、グリーンランド沖に向かった。だが、船内では英語でのコミュニケーションがなかなかとれず、「叩きのめされました」。おまけに二つ目玉のハリケーンに襲われ、命からがらカナダの港に逃げ帰った。散々な航海も、「いまとなっては良い経験。地球相手のプロジェクトの魅力を感じました」。たくさんの人と大きなことを成し遂げる。その達成感が、今でも仕事のやりがいだ。
○…3・11当日は、青森・八戸港で地元小学生に「ちきゅう」船内を案内中に被災。幾度も押し寄せる津波に翻弄されながらも、一人のけが人も出さずに生還した。「生涯忘れてはいけない、大きなできごと」と振り返る。多くの犠牲を払った震災だが、防災や地震研究に広がりをもたらした。地球が持つ凄まじい力を肌で感じてきたからこそ、目指すのは地球との「共存」。「私は『目立ちたがり屋』ですから、その取り組みを皆さんに伝えていくことが役目です」。そう言って、屈託ない笑顔を見せた。
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