『スペイン短歌紀行』を著した 中島 孝夫さん 東朝比奈在住 70歳
果てぬスペインへの情熱
○…「彷徨い人」を自称する。過去13回スペインを訪問し、100以上の地域を放浪。旅中での感情を短歌でしたため続け、322首を収録した『スペイン短歌紀行』を執筆した。14年間に及ぶこうした「彷徨い」の始まりは「見た瞬間、体中に電流が走った」という、ある絵との出会いだった。
○…大学でスペインの美術史研究の権威、神吉敬三さんに師事した。大学卒業から約40年後に神吉さんが亡くなり、遺品として譲り受けたのが、同国の画家・エル・グレコの「聖母マリア」の絵だった。「恩師に『再び学べよ』と言われたようだった。スペインへの情熱が激流のように蘇った」と振り返る。それから同国の歴史、美術、文学を学びあさったが満足できず、57歳で最初の訪問を果たした。特に心動かされたのは、友情に溢れるスペイン人の性格だった。現地で出会ったレストランのオーナーは、熱を出して倒れた夜、夜行列車に乗り駆け付けてくれたという。スペイン語で最も有名な言葉のひとつ「アミーゴ(友達)」を実感し、さらに魅了されていった。
○…商社に勤め、マーケティング部門で100カ国以上の海外出張をした。「多く回ったが、スペインが一番落ち着くね」と笑う。英語がまったく通じない国もあったが、紙と鉛筆で意思の疎通をしたこともあった。「言葉を長々と並べればいいというわけではないと知った」。短歌にこだわるのも、長い文章よりコンパクトに思いが伝わるから。「何かあるたびに短歌を書き、数千首は作った。知人の結婚式にも贈るほどです」と照れながら話す。
○…六浦地区センターでスペイン語講座を開くほか、年に一度、同国の詩人を呼んで「日西文化交流会」を開催。「スペインに興味のある人ともっと交流し、学びたい」と意欲的だ。「エル・グレコ書きしマリアに魅せられて見果てぬ夢のスペイン彷徨う」―。スペインへの情熱はまだまだ、果てることはない。
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