句集「みどり書房」を発表した 森島 裕雄さん 能見台通在住 67歳
俳句の魔術に捕らわれて
○…かつて京急能見台駅前にみずから開いていた書店の名を、句集のタイトルにした。書店に立ち寄る横浜高校の生徒や能見台住民とのふれあいや、閉店に追い込まれる状況、そして54歳にして飛び込んだ「営業マンの世界」の厳しさを17字で表している。
○…俳句を始めたきっかけは、横浜高校教諭だった俳人の今井聖さんに出会ったこと。「これが俳句なの?」というのが、今井さんの句を初めてみた時の感想だった。「俳句なんてジジくせえと最初は思っていた。でも先生の俳句は違っていた」。私的な経験をありのままに詠んで良いという考え方に共感。しかし「簡単じゃなかったね」と笑う。意気込んで詠んだ句が全く評価されない。一方で何気なく読んだ句のほうが、評価されることが多いという。「解釈は読み手に任せてしまえばいいと知った。それが面白いところ」
○…「レジ台に電動鋸の刃入りぬ寒」。25年の間毎日座ったレジ台は、解体業者に頼むこともせず、涙を流しながら自らの手で破壊した。時代の流れに抗えず、区内の個人書店ではいち早く廃業を決意。「裏切り者扱いもされた。辞めることがここまでエネルギーが必要だとは」。そしてほどなく住宅設備会社の営業マンへと転身した。300件訪問し1件から見積りを依頼されれば「万々歳」という世界。代えがたい契約の喜びを「白板に『契約』の二字冬銀河」と詠む。多忙を極める中、こうした句を読み返すことで自分自身が救われた。それこそが「俳句の魔術」なのだという。
○…今年2月、住宅設備の会社を立ち上げた。「67歳からのスタート。この仕事はしばらく続けたい」と意気揚揚だ。今井さんを講師に迎えて立ち上げた句会は20周年を迎え、自身の俳句人生も20年となった。「もちろんこれからも続けるつもり。俳句三昧とはならないけれど」。誰にも詠まれたことのない「自分の一句」を求める。
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