物語でめぐる金沢 『遠き落日』(渡辺淳一作品集第18巻・文藝春秋社刊、角川文庫版上下・角川書店刊、等)文・協力/金沢図書館
野口英世が最後に帰国したのは1915年9月5日、今年が100周年でした。彼は現在の金沢区長浜にあった「横浜海港検疫所」に勤務し、ペスト患者発見という成果を上げています。ゆかりの「旧細菌検査室」が横浜市長浜ホール内で保存されているのをご存知の人も多いでしょう。
今回取り上げるのは、人間・野口英世を描いたとして高い評価を受けている伝記小説「遠き落日」です。ひたすら偉人として祀り上げるのではなく、野口の欠点も隠すことなく描かれています。
利用できるものは何でも利用してアグレッシブに前へ進む強烈な向上心、生まれついての貧乏が影響したのか、お金を持つと使わずにはいられない浪費癖。手練手管を使って借金をしまくり決して返すことはない等々。とはいえ、欠点を書かれるほど逆に野口の人間的魅力が感じられもするのです。
有名な北里柴三郎博士の北里研究所に勤務する野口でしたが、彼の借りだした本が転売されるという事件が起こり、そこには居辛くなってしまいました。そして北里博士の口利きで横浜海港検疫所検疫医官補に採用され、長浜にやって来ます。
伝染病が疑われる入国者を収容する施設は、まるでホテルのような豪華さだったなど、昔の検疫所の様子が紹介されています。野口が長浜の検疫所で働いていたのは明治32年の5月から9月というわずかな期間でしたが、ここでの手柄が認められ、国際防疫班の一員として清国に渡り、彼の活躍の場は海外へと飛躍していくのです。
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