昨年末に惜しまれつつ閉店した西区宮ヶ谷の蕎麦店「古登婦喜(ことぶき)」の元店主、上村(かみむら)景嗣さん(63)が3カ月ほど前から蕎麦打ち教室を開催している。「地元の名店」の復活に、月1回の開催を心待ちにするファンが集う。
会場は店があった場所からほど近い南軽井沢の古民家。上村さんは蕎麦粉を練るところからひと通り手本を見せた後、参加者たちが蕎麦打ちを行うテーブルを忙しく行き来し、1人ずつ丁寧に指導する。「年越し蕎麦は決まって古登婦喜さん。親子三代で通っていた」と懐かしむ人や「作るのは苦手だけど、この味がまた食べられるだけで嬉しくて」と参加する人も多い。
大病経て、決意
上村さんは27歳の頃、葛飾区にある実家の蕎麦店をのれん分けして1982年、横浜に開店。出前中心だった店はいつしか創作蕎麦会席が評判の地域に欠かせない名店に。小学生に向けた出汁作りの授業や蕎麦教室なども積極的に行った。
しかし、13年前に大腸がんが見つかり、生活は一変。入退院を繰り返しながら店に立つ日々に不安を感じていた矢先、開店当時から共に店を支えてきた一番弟子の職人が昨年、末期がんを宣告され、わずか半年で亡くなった。「いずれ店を譲ろうと思っていた人だった」。支えを失い、店を閉める決意をした。最終日の大晦日は昼から大行列。最後の年越し蕎麦を終えて、約35年の歴史に幕を閉じた。
その後上村さんは2月に17時間におよぶ手術を受けて4月中旬まで入院、リハビリ生活を送っていた。今回会場となった南軽井沢の古民家を運営し、アーティストや若者支援を行う今井嘉江さんから「店で使っていたざぶとんがあったら譲って欲しい」と連絡があり、「食器や暖簾もよかったらと話したところ、せっかくならここで1日蕎麦屋をやったらどうかと言ってもらって」。予期せぬ提案だったが、古民家のロケーションに魅せられ、「日々の生活の張り合いになれば」と6月から月に1回、蕎麦打ちを教えることになった。
「地域へ恩返し」
最近は教室の噂を聞きつけた地域の人から、「うちの町内会館でも蕎麦教室を開催して欲しい」と声がかかるように。体調はまだ万全ではないため、「出来る範囲で少しずつ」としつつも、「開店当初、若造だった自分を応援し、ごひいきにしてくれたのは地域の人たち。これから蕎麦を通じて恩返しをしていけたら」と笑顔をみせた。
次回は9月29日(金)の午前11時から午後2時まで。参加費3千円。定員10人。会場は「自在」南軽井沢稲葉邸=西区南軽井沢15の17。申込みは上村さん【携帯電話】090・5540・8856。
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