〈連載〉さすらいヨコハマ② まだある篠田正浩作品 大衆文化評論家 指田 文夫
前回は映画『乾いた花』を紹介したが、篠田正浩の作品にはほかにも横浜が舞台のものがある。1961年の『夕陽に赤い俺の顔』と『わが恋の旅路』、62年の『涙を、獅子のたて髪に』で、脚本は寺山修司。
アクション・コメディーの『夕陽に赤い俺の顔』は、小港団地を殺し屋が右往左往するが、当時はこの団地が最先端の住宅だったことが分かる。
失われた横浜も
『わが恋の旅路』は、新人新聞記者の河津祐介が喫茶店のウエイトレス・岩下志麻に一目ぼれする。彼女は貧困から、一旦は富豪の渡辺文雄の家に入るが、家風に合わぬと捨てられ、記憶を喪失。最後は港を見おろす外国人住宅の庭で記憶を回復するメロドラマ。外人墓地や堀割川沿いを走る路面電車、花月園競輪場、運河と港橋と横浜市庁舎、大岡川の浚渫船、捺染工場など、今では失われた横浜も出てくる。
『涙を、獅子のたて髪に』は、子安浜の港湾労働者の娘・加賀まり子と会社の組員・藤木孝との恋物語だが、藤木が加賀の父を殺すことになる青春の悲劇。山下埠頭の倉庫群や新山下貯木場の外国人ヨットクラブ、野毛山動物園など、小杉正雄のモノクロの画面と武満徹の抒情的な音楽がとても美しい。ちなみに、この題名は、三島由紀夫に激賞された。
(文中敬称略)
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