タウン童話 『山田さんちのけやきの木【2】』 絵・文 バタバタばーば(斎藤分町在住)
僕はいっきに飲(の)み干(ほ)してしまった、だってすごくのどが渇(かわ)いていたんだもの。
そしたら、びっくり、びっくり、びっくりさ。僕の身体がみるみる小さくなって さっきの子どもと同じくらいになったんだ。ちょうど穴に入れるくらいの背丈になると、受け付けの女の人が「これをお召しください」と言って緑色のベストと白いブラウスをさし出してくれた。それを着ると、さっそくさっきの子と同じように階段を下りた。
ずいぶん長い階段で、足がすっかり疲(つか)れてしまって、もう休もうかと思う頃地面についた。そこは四方(しほう)八方(はっぽう)に道があり、とっても広くて、大勢の人が行ったり来たりしていた。広場のようになっていて、そこでは、果物(くだもの)を山のように盛り上げて売っている人、肉をつるして切り分けてはお客様に出している人、ワゴンにたくさんの花を積(つ)んで通る人にその香(かお)りを振りまくお花屋さんなど、とっても賑(にぎ)やかな街(まち)だった。
こんなに人がいたのではさっきの子は、とても見つかりそうもないので、広場の真ん中で歌を歌っている人に「さっき向こうから大急ぎで駆(か)けてきた僕と同じくらいの子、知りませんか」と聞いてみると「その子ならあの出口門から出て行ったよ」と教えてくれた。 いろいろな彫刻(ちょうこく)のしてある立派な出口門には門番のような人が立ってた。「ちいさい子、探しているんですけれど」というと「この道をまっすぐ行ってごらん、きっと待ってるよ」といって門を開けてくれた。しばらく行くと大きな塔(とう)のあるお城(しろ)が見えた。白い壁のお城は森の上にニョキっと頭を出していて、どこから見ても目に入る大きくて立派なものだ。そのお城に続く道の途中におおきな看板(かんばん)があった。「子どもの国」と書いてある。さっきの子どもが「オーイ」といって手を振っているのが目に入った。やっと追いついた。「君の国なの」と聞くと、ここは子どもばかりが住んでいる国なのだと説明してくれた。王様も家来(けらい)もみんな子どもなのだそうだ。大人が一人もいないので、みんな子ども達で考えて国を作っている。必要なものはお城の一番奥にある黒板(こくばん)に「白いカーテン」とか「いちごのケーキ」と書いておくと、王様から知らせがあっていただきに行くとちゃんと手に入るようになっている。 でもその黒板に欲(ほ)しい物を書くことを許されるのは大変難(むずか)しい条件があるのだそうだ。一つは緑や生き物を大切にしない人間に「それは間違(まちが)っています」とちゃんと説明できた人。二つ目は勉強や仕事がイヤになって逃げ出してしまう人を助けて、ちゃんと勉強や仕事にもどることができるまでお手伝いができた人。三つ目は十人以上お友達ができた人。この条件(じょうけん)を全部クリアした人がお城の奥の部屋のカギを王様からもらえるのだそうだ。 だからこの国の子ども達はだれもがそのカギを手に入れる為に頑張(がんば)っている。さっきの子どもが近寄ってきて「僕は今、君のお友達のゆりちゃんの家に毎日通っているんだ」と言った。ゆりちゃんは同じクラスのちょっとおすましの子だ。そのゆりちゃんは、自分の部屋(へや)に金魚を飼(か)っている。小さい水槽(すいそう)の中に七匹もの金魚がいる。それなのに水槽のお掃除をしないもんだからいつも水が濁(にご)っていて、金魚達は苦しそうに水面でパクパクしている。これは僕も知っている。中がぜんぜん見えないくらい汚(きたな)くて、夏休みの終り頃「金魚が一匹死んじゃったの」と言っていたこともあった。
その子はゆりちゃんに「金魚をもう少し可愛がって欲しい」と言いたくて毎日通っているというのだ。金魚に「もっと大きな口を開いてゆりちゃんに見えるようにパクパクやってみてよ」とか「みんなで暴(あば)れてみて」とかやってみたんだけれどゆりちゃんは気がつかないみたいで、毎日その水槽を無視(むし)して遊びに行ってしまう、と言って悲(かな)しそうな目を僕に向けた。「で、お願いがあるの、ゆりちゃんに水槽のお水を毎日換(か)えてやってって言ってもらえないかな」
=つづく(不定期掲載)
|
|
|
|
|
|
|
<PR>