タウン童話 『救（すく）い出されたお姫様（ひめさま）』 絵・文 バタバタばーば（斎藤分町在住）
森の真（ま）ん中（なか）に高い塔（とう）のあるお城があります。この国の人々はこのお城を中心に暮らしていました。そこには、国中の誰からも尊敬（そんけい）されるやさしい王様（おうさま）がおられました。ところが王様には、あと継（つ）ぎの王子様がいないという悩（なや）みがありました。あと継ぎいない国は、周りから国を取りに戦争（せんそう）をしかけられてしまうのです。王様は多くの人を犠牲（ぎせい）にしてしまう戦争が大嫌（だいきら）いです。
ある日うらない師がお城にやってきて「王様、ここからまっすぐ南にお行きになり、そこにいる娘とお話ください。その娘はきっと王様の助けになるはずです」と言いました。王様は大変よろこんで、さっそく旅（たび）の支度（したく）を整（ととの）え、ひとりの若い家来（けらい）をつれて出発しました。何日も何日も歩いて、とうとう大きな岩が目の前いっぱいにそびえている森のはてまでやってきました。王様も家来もへとへと。するとその岩の中から「もしかして、王様ではありませんか。あなたがおいでになるのをずいぶん待っていました」と若い女の子の声が聞こえてきました。王様は、やさしい声で「そうだよ。私はこの国の王だよ。娘さん、何か困ったことでもあるのかな」とたずねました。するとその娘は、「私は、本当はこの国のお姫様として生まれるはずだったのですが、黒い雲の中から大きな手が出てきて、ゆりかごごとさらわれてしまったのです」と言いました。そのまま雲に乗っていれば、王女様として生まれるはずの娘だったのです。王様はたいそう喜（よろこ）ばれ、つれてきた若者に、大きな岩をどかしてくれるように頼（たの）みました。すると、その若者は、「実は、私もお姫様を助けるために遠い国からずっと旅をしてきた者なのです。私の国では二人目に生まれた王子は、人を喜ばせたり、人の役に立ってからでないと王位（おうい）をもらえないのです。兄はすでに王になっているのですが、第２王子の私は、こうしてずっと旅を続（つづ）けておりました。これでやっと人の役に立つことができます。どうか私におまかせください」というと、大きな岩をどかして、それはそれは美しいお姫様を救（すく）いだしました。その姫を見て王様はびっくりしてしまいました。お妃様にそっくりだったのです。「おー姫、待たせてしまったね。もう大丈夫（だいじょうぶ）。帰ってお母さんの妃を喜ばせてあげよう」と、お姫様をしっかり抱（だ）きしめました。お城に帰ると、どの家も花を飾（かざ）ってお祝（いわ）いのしたくをしていました。王様は、その若者に「どうか、姫と結婚してこの国の王になってくれないか」とお願（ねが）いしました。若者は美しいお姫様とすっかり仲良くなり、結婚を受け入れました。すると、国中の家家（いえいえ）からお祝いの声が聞こえ、お祭（まつ）りが始まりました。今まで、いつも病気（びょうき）がちだったお妃様はすっかりお元気になり、自分と瓜（うり）二（ふた）つの姫を見て、以前の美しいお妃様にもどりました。それから大勢（たいせい）のお客様を招待（しょうたい）して、結婚式（けっこんしき）が行われました。たくさましい王子様と美しいお姫様のお二人の並（なら）んだ姿（すがた）はまるでお人形のようだと人々がため息をつくくらいの美しさです。
そうして、新しい王様は本当にやさしく、長く人々が安心して暮（く）らせる国をおつくりになりました。
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