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麻生区版 公開:2015年3月20日 エリアトップへ

麻生の歴史を探る 麻生の寺院(2)潮音寺・香林寺

公開:2015年3月20日

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潮音寺
潮音寺

 高石の潮音寺は、鎌倉建長寺末、義経・弁慶の大般若経、市の文化財を持つ寺で有名な菅の寿福寺(臨済宗)の末寺といわれています。寺伝によると、永享年間(1428〜1440年)に、寿福寺三世日峯法朝なる僧によって現在とは異なる地に創建されました。しかしその後、寺運が衰え、江戸時代になって高石村の領主加々美金右衛門正吉が、三男十左衛門潮音の死を悼み、承応元年(1652)に万松山潮音寺として再建したと伝えられています。

 この加々美家は元武田氏の家臣でしたが、正吉の父正光の代に主家の滅亡に伴い高石村に移住しました。正光は村の開拓に務めた実力者と言われ、徳川家に仕えて、高石村字本村谷に屋敷を賜りました。古刹法雲寺を建立した仏心に篤い人物で、寛永6年(1629)に没しています。当時廃寺同然だった旧潮音寺ですが現在は高石の字本村にありますので、子の正吉が父正光の遺志を継ぎ、拝領の敷地内に本寺である寿福寺譽心上人の協力を得て、移築再建したのではないでしょうか。

 この潮音寺は正吉が寄進した三段九畝(約3900平方メートル)の広い寺域を持っていました。現在でも街中にあって寺域はほぼ維持され鐘楼堂や駐車場があり、墓地には高石村開拓の五苗といわれた加々美・吉沢・笠原・木下・石塚各家の墓石が、寺の歴史を物語るがごとくに存在しています。なお、この寺は大正12年の関東大震災で全壊し、再建されますが、昭和56年に鉄筋コンクリート建てで改築されています。

 荘厳な本堂には本尊聖観音菩薩座像が安置されています。この像は高さ一尺二寸(約40cm)の木造で、その胎内には五寸程の聖観音が納められています。新編武蔵風土記稿によれば「(胎内の聖観音は)行基菩薩の作なりという、この本尊及び過去帳は旧院の汁物にして、本山よりここに移せしものなり ・・・」と、寿福寺→旧潮音寺→現潮音寺へと法灯が引き継がれていることを記しています。

 五重塔で知られる細山の香林寺の創始は、潮音寺とは異なり、一般農民の仏教信仰から創設されたものです。寺の沿革は大永5年(1525)に、同じ寿福寺の六世南寿法泉によって「高林坊」なる寺が創建され、江戸時代初期の慶長年間(1596〜1614)に鎌倉建長寺の僧が中興開山となり、現在の「南嶺山香林寺」となったと伝えます。しかし風土記や伝承によると、この寺にはそれ以前の古い由来があるようです。

 新編武蔵風土記稿でこれを探ると、「・・・ 文禄三年(1594)の水帳には高林坊と記せり、観音の別当所なりとう ・・・ 観音の縁起は文明元年(1469)にかきしものなれば、この堂の建ちしは、なお古き代のことなるにや、客殿六間半に五間半本尊十一面観音を安ず、これを身替観音と号す ・・・」と記しており、さらに古碑が4基あって、それぞれ永仁三年(1295)、貞和四年(1349)、明徳二年(1391)、応永十七年(1418)と刻印されていると見え、鎌倉時代永仁の頃よりの古い由来があることを述べています。

 また、伝承によるとこの十一面観音は弘法大師の作と言われ、文明元年(1469)因幡国(鳥取)高草郡清水の長者の屋敷から移されたとするもので、「長者が夜、強盗に襲われ、顔に二ヶ所の傷を負ったが、翌朝気付くと顔に傷はなく、代わって秘蔵の観音様のお顔に二ヶ所の傷が付いていた」ことから「身代りの観音」と崇められました。この時期、この地には阿弥陀信仰の板碑が多く造立されており、その農民の仏教信仰が観音堂を建立させたと思われますが、それは永仁年間からのことで、細山の仏教風土が分かります。残念なことにこの観音像は文政13年(1830)の火災で焼失しましたが、幸いにも檀家の家から実像のお姿の掛け軸が発見され、現在本堂内陣に大切に掲げられているとのことです。

 有名な五重塔は、昭和62年の建立で、高さ約50m、総檜造り、日本で唯一の唐様(禅宗様式)の塔で、川崎の新名所となっています。さらに境内には「太子堂」と呼ぶ堂宇がありますが、これは大正10年、細山・高石の太子講組合が奉納したもので、堂内には、小像ながら高村光雲作の聖徳太子像が納められています。

 なお、この細山の地には慶長3年(1598)浜坂高勝寺の門徒、獄照寿仙なる僧が、延命院と呼ぶ真言道場を開設しますが、廃寺となり、獄照寿仙の過去帳、後継の智海上人の墓は香林寺に移され、衣鉢がこの寺に継がれているようです。

 参考文献:「新編武蔵風土記稿」「川崎地名辞典」「麻生区の神社と寺院」「生田村郷土のしるべ」文:故小島一也(遺稿)

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