○…演者1人が話しているだけで、場面に動きや変化はない。が、小学生の少年は、ブラウン管の中の「おじさん」の世界に惹き込まれた。「まるで話の中に入り込んでしまったような。その場にいるような」。驚きだった。中学生になると、自然と足は演芸場に。朝は若手の寄席を見に上野(都内)へ、昼からは旧池袋演芸場へと、1日どっぷりと落語漬け、そんな日々だった。
○…月に20席を各地で行う。舞台が用意されている会場から会社、町内会に、蕎麦屋、飲み屋と様々な場所で噺を披露する。落語が初めての人には本筋につながる枕を長くしたり、説明を加えたりと工夫。観客の数により声に強弱をつけるなど「その場その場で寄席は全く違うものになる」。中でも、骨董店を舞台にしたドタバタ劇を描いた「金明竹」や左甚五郎が登場する「ねずみ」の噺が好き。
○…日限山中学校(港南区)から明治学院大学(上倉田町)時は吹奏楽部に所属、トランペットにパーカッションと、音楽にもどっぷり。「落語、音楽…勉強はどこにいったんだってね」。話の要所要所でくすりとさせられる。穏やかな表情にゆったりとした口調が耳に心地いい。あれ、取材中もしゃべりが落語のよう。聞くとそれは子どもの時から。「お前はしゃべりが何か違う」「今っぽくないぞ」と。それは雰囲気にも。「17歳の時から40歳以上に見られてましたから」。
○…大学卒業後、鈴々舎馬桜氏に入門し、今年で12年目。位は二ツ目。客の反応が少ないスランプも経験したが、それでもドンとした笑いを味わえるからこそ、「やってこれたのかな」。そして今後のイメージは膨らむ一方。軽い小噺、ばかばかしい噺、シリアスもの、新しい手法…。「肩肘張らずにリラックスして、ワッと笑ってもらいたい」。若手落語家は、羽織袴にハットをさっと被り、微笑をたたえたまま、静かに取材場を後にした。

