郷土史研究書『ビルマの志士が箱根にいた』を上梓した 涌田(わくた)佑(ゆう)さん 南区相武台 83歳
異国の”原点”郷土史にチラリ
○…昨年末、アウンサンスーチーさん解放のニュースが世界中を駆け巡った。軍事政権から自由化への道を歩み始めたというミャンマー。40年にわたる長い研究から、わが国との偶然ならぬ深い繋がりが浮かび上がってきた。戦中には、ビルマの若者30人がこの日本に留学。「実は、ここ相模原も無関係ではないのです」。彼らの多くは、現在はキャンプ座間が位置する相武台陸軍士官学校や、箱根で軍国主義を叩き込まれた。今、もっとも注目を浴びる一国の現在へとつながる過去を、東京・神奈川の郷土史という観点から照らし出す、異色の一冊を上梓した。
○…海老名市出身。高校・短大の教壇に立つ傍ら、研究活動を続けてきた。専門は文学地理。紀行文学などに登場する舞台の地理的状況・環境が、いかにその作品形成に影響を及ぼしたかを学究する。幼い頃から寺社仏閣が好きで、郷土史もお手の物。「士官学校の塀の向こうを見てはワクワクしていました」。あの頃の軍国少年は、今では軍都時代の相模原も研究対象だ。 ○…趣味は旅行。研究の一環でもあり、近場への歴史探訪はもはやライフワーク。今、最も訪れたい場所はドイツ・ベルリン。「近代文学研究はやはり鴎外に立ち返るんだよ」。『舞姫』の舞台に想いを馳せている。
○…軍事国家のイメージが強いこれまでのミャンマーだが、政に燃える者はいたものの、軍人はもともといなかったそうだ。「民衆を容易に抑えつけることのできる”軍事力の便利さ”、それを教えたのは他ならない日本なんですよ」。そうするとスーチーさんのおよそ15年にわたる軟禁生活の発端は、どうやらここにあることになる。皮肉なことに、その留学生の中には、スーチーさんの父・アウンサン将軍の姿も。「戦前・戦中の神奈川と東南アジアの一国の歴史。一見、まったく関係ないような”点”でしかなかったものが、そうしてリンクしてくる」。郷土史はスリリングだ。
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