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問われる「共生」 向き合う「内なる差別心」 第1回 やまゆり園元職員・太田顕さん

公開:2017年1月12日

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取材に応じた太田さん
取材に応じた太田さん

 障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた入居者殺傷事件から5カ月以上の時が流れた。事件が残した爪痕を風化させないため、本紙では今回の事件が社会に何を問い、私たちが何をすべきかを全8回の連載で探っていく。各回にはテーマを設け、関係者などへの取材記事を不定期で掲載する。第1回目は「障害者と施設」を主題に同園で36年間勤務した太田顕さん(73)に話を聞いた。

 太田さんは千葉県で生まれ、大学を卒業後、1968年から同園に勤務した。施設での主な役割は入居者を直接サポートする「生活支援員」。学生の頃から「困っている人の役に立ちたい」と福祉の道を志し、同僚とともに懸命に働いていた。ただ、現場で経験を重ねるうちに、ある「違和感」を感じ始める。例えば喫煙。ある入居希望者から喫煙の要望を受けるが、当時の施設は全面禁煙。規則を理由に断った。一方、職員は所定の場所であれば喫煙が可能。こうした「差」を目の当たりにする中、「なぜ入居者はだめなのか」と疑問を抱くようになった。同時に「安全」や「効率」を隠れ蓑とし、自らを含め職員たちの心に巣くう「内なる差別心」に気付かされた。「良かれと思い支援してきたが、気付かぬうちに障害者差別に加担しているのでは」。自らの差別心と向き合った太田さんはその入居希望者について上司と協議を重ね、条件付きで喫煙を許可し施設に迎え入れた。

 そして一つの決心をする。「利用者から『太田はこの施設にいらない』と言われるまで、ここで働き、とことん入居者と向き合おう」。5年程施設に勤務すると、キャリアのために異動する同僚が多い中、度重なる異動の提案も断り、定年まで入居者に寄り添い続けた。退職後は小学生の登下校を見守るボランティア活動に精を出しながら、穏やかな日々を過ごしていた。

求められる現場への支援

 そんな中起きた今回の事件。容疑者は自身と同じく元職員だった。警察の取調べによると、容疑者は同園で働く中で障害者を排除する考えを強くしていった可能性が高い。太田さんは「福祉職員は経験を重ね、現場で育ちますが、その反対の道を辿ってしまった」。容疑者がより過激な思想を抱くようになった本当の理由はわからないとしながら、「現場で懸命に働いている職員が多いはずですが、それと同時に彼を支え、正しい道に導けなかったのか、私自身悔しい思いがある」。

 続けて、「人は誰でも心の余裕がないと優しくなれません。厳しい環境にある現場も多いと思いますが、職員が心にゆとりを持てるよう待遇を改善してほしい」と担い手への支援の必要性を強調。そして、容疑者と同じではないにしろ、私たちの心に潜む「差別心」と向き合うためには「異なる立場の人々と日常から交流することが必要」とし、その上で「そうした人たちの中にある『自分と同じところ』に目を向け、障害者差別を乗り越えて行きたい。そして、誰もが安心してともに暮らせる社会になってほしい」と願いを込めた。
 

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