入居者殺傷事件が起きた「津久井やまゆり園」の再生計画について、県障害者施策審議会は8月17日、当初想定していた現地(千木良)での大規模施設再建を見直し、現地と仮移転先となっている横浜市港南区芹が谷の施設などを拠点に小規模・分散化する案を盛り込んだ最終報告書を県に提出した。県は今後、基本構想の計画案をまとめ地元への説明会などを経て計画として策定する方針だ。
同園の再生計画を巡って県は今年1月、現地での全面的な建替えを大筋で決定していた。ただ、当事者から「当事者の意見を聞くべきだ」などの批判が相次いだことを受け、県の障害者施策審議会に特別部会を設け計画の見直しを実施。報告書は特別部会が今年2月以降に行った計12回の会合を基に作成された。
その中で施設の在り方については、大規模施設の再建ではなく、現在の入居者131人分の居室数の確保を前提に千木良、芹が谷に加え既存の県所管の施設を拠点とし、10人以下の小規模施設を複数設ける方針を明記。現在の障害福祉施策では入所施設が小規模化していることを重視しつつ、入居者の家族の多くが千木良での受入を希望していることから、全希望者が千木良に戻れるよう施設整備する必要性も付記された。加えて、入居者の意思を尊重した上で、入所施設だけでなくより身近な施設であるグループホームなどの利用も選択肢として整備することが求められた。
報告書では他にも、拠点施設はいずれも今後の整備が必要となり、千木良、芹が谷については将来的に入居者数が減少した場合、短期入所などへの用途変更にも対応可能な施設構造とする必要性が指摘された。
県は報告書を基に、8月中に基本構想案を策定し、地元住民などへの説明会や議会での審議を経て、今秋頃までに正式に計画として策定していく。
課題に「意思決定支援」
園の再生に向け施設面の概要が固まりつつある一方、今後は言葉によるコミュニケーションが難しい入居者がいる中で、本人の意思を尊重し、入居施設の選択を支援する「意思決定支援」の充実が求められる。報告書の中では、国が今年3月に策定したガイドラインに沿い、本人の意思確認を進めることを明記している。 加えて、各入居者に対して相談支援専門員などで構成される支援チームを設けた上で、それらを集約する「意思決定支援検討会議」を設置する方針を掲げる。県は既にやまゆり園職員などを対象とした意思決定支援に関する研修会を開いており、今後具体的な進め方を協議していく方針だ。
寄り添い「思い」引き出す
横浜市栄区には全国の施設に先駆け、最重度の障害者らが暮らすグループホームを運営する「社会福祉法人 訪問の家」がある。同法人の名里晴美理事長は、重い障害を持つ利用者と接する上では「どんなに重い障害があっても常に何か感じており、それを聞き出すことが必要」と話す。
同法人では「どんなことでも本人に聞く」を施設運営方針とし、食事はもちろん、室温や服装も利用者の意思を細やかに確認している。利用者の多くが言葉による意思疎通は難しいが、職員らは文字ボードや目、足の動きなどを参考に、問いかけに対する返答を見極めている。
だが、名里理事長によるとそうした意思表示は最初からどの利用者もできているわけではないという。最初は問いかけに対して、ただ声を上げているかのように聞こえるが、職員が一人ひとりの利用者と長い時間を共有し、じっくり向き合うことで少しずつ意思表示の方法が理解できるようになる。そして、当事者も自分の意思を大切にしてくれることがわかると、より明確に意思表示をするようになるという。名里理事長は「ガイドラインには一般的なことが書かれていますが、これをどのようにして現場に落とし込んでいくかが、意思決定支援における今後の課題だと思う」と話した。
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