町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の19
○○ありき
「〇〇ありき」という言葉をしばしば聞く。解りやすく言えば、動かせない物や条件が既に決まっていることで、それに向かって話し合いなどをしていく場合に使われる言葉。最もポピュラーな例としては、殊に行政の計画に多い〇〇ありきだ。
地域組織、箱物、道路など、行政の計画は10年以上も前に線引きされている。そして実行する時期が近づくと地域団体の代表を集めて概ね1年間程度で数回の会議が行われるが、大幅な計画の変更などの意見は〇〇ありきだから許容の範疇にはない。
あからさまに却下されるのではなく、ここは担当部課長の腕の見せ所で、上手に本線に誘導される場合がほとんどだ。何しろ〇〇ありきなのだから。では何のため地域の代表者や有識者は召集されているのかというと、行政の「ありき」には地域が参加して話し合ったという肉付けが必要だからに他ならない。許容される幅の中で「ありき」に向かって進み、「ありき」はめでたく遂行されると肉付けの効果が発揮されてクレームは出にくい。参加者として分かっていても、「ありき」に向かっての許容幅が広ければ話し合いはつまらないわけではないが、「やっぱりこうなったか」という思いを何度も経験すると、私のような偏屈ができあがることもある。
ナンバンギセルを探す時にはススキの野原を目指す。煙管(きせる)とは煙草の葉を金属の管の先に詰めて吸うものだが、日本の煙管は胴が寒竹で作られていて太い。『南蛮の煙管』ということは、おそらくスペインやポルトガルから入ってきた煙管が、胴も金属で細いために良く似ているから名付けられたのだろう。
ナンバンギセルはイネ科ススキ属、特にススキの根に寄生して生えることが多い。ススキに養分をもらうから葉っぱを持たない。ただし仲間を増やし過ぎると宿主のススキが死んでしまうから爆発的に増えることもない。稀に陸稲に寄生して害をもたらすこともあるが、この場合は当然駆除されるから、ナンバンギセルの安住の地はススキ野原なのかもしれない。他にも湿生植物、水生植物の区別や、熱帯、温帯の区別、林内の明暗など、植物は環境や条件ありきで命を保っている。
最近、東京五輪に向けてざわざわしている。開催地と費用の問題で国、東京都、JOC、IOCの関係性には常に利権ありき。最も残念なのは競技者最優先の考え方、つまり小池知事が苦し紛れに発している「アスリートファースト」が見えないこと。三つ巴四つ巴が利権ありきの微調整を繰り広げるもどかしいやり取りの上に、競技者の思いをずっしりと乗せることはできないのか。生物は全て環境ありき。競技者が最も力を発揮できる環境作りこそオリンピックと言えるのではないか。開催地として立候補したのは確実にできるという計算の上だったはず。
日本人に対する海外のイメージは繊細で緻密、温厚で堅実。それが細やかな「お・も・て・な・し」に繋がる。残念ながら日本をよく知らない国々は、日本は放射能に包まれていて、火山で出来ている国土は地震が多いのに原発がたくさんある危険な国だと思われている。
これを払拭する良い機会にするなら、もどかしいやり取りなど早く切り上げて、海外の選手たちも生き生きと競技できる納得する環境を用意することが第一。こうなってしまった以上、このざわざわの中で利権を捨てて競技者最優先に舵を切った人が、国民から称賛されることは間違いないのに、なぜやらないのか。それは手械足枷、ひきずる物も多いからか。そんな人間には絶対になりたくない。ススキ野原にうつ伏せになって、生き生きと思いのままに花を咲かせているナンバンギセルに話しかけているのが向いてる。「お前はここがベストなんだよなぁ」って。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |