町田市立博物館より㉖ バナナの正しい食べ方 学芸員 矢島律子
7月8日から町田市立博物館で「黄金の地と南の海から〜東南アジア陶磁の名品〜」展を開催します。これは当館が四半世紀にわたって収集してきた東南アジア陶磁1500点の中から170点を選んで皆様にお見せしようとする展覧会です。東南アジア陶磁がこれほど集まっているのは世界的にも珍しく、また日本人が丁寧に集めたものなので観賞価値の高いものが多いといえます。
1991年に山田義雄氏が565点をご寄贈頂いただいたのが発端です。続く中村三四郎氏、木内宗久氏、上神亮治氏は「東南アジアといえば町田だから」とご寄贈くださいました。おかげ様で、世界中から、とりわけ東南アジアから研究者たちが勉強に訪れるほどのコレクションになりました。
担当学芸員はできるだけ多くの研究情報を収集するため、諸先生方と様々な助成金に助けられながら、時間をやりくりして東南アジア各地へ調査に行きました。本展では「スライド・レクチャー」という形でその記録を皆様に見ていただく予定ですが、この欄では、調査旅行の思い出をいくつかご紹介していきたいと思います。
さて、正しいバナナの食べ方をご存知ですか?
「ベトナム青花」(2001年開催)展準備のためにベトナムへ調査に行った際のことです。通訳兼諸機関との交渉役であったベトナム考古学院の研究員T氏に、ある夕食の最後に出てきたバナナを前に「ヤジマ、トゥライ バナナ」と言われました。筆者は首をかしげながら、バナナを1本左手に握り、半分ほどまで皮を剝き、剥けたところを右手でぽきりと折って食べました。皮を剥いてそのままかぶりつくのはさすがに気が引けたので、半分に折ったのです。「ノー!ノー!」というT氏。「こいつやっぱり礼儀がなってないな」とばかり、正しいバナナの食べ方を伝授してくださいました。
礼儀正しく
T氏は同行の先輩研究者の旧知で、古典的知識人でした。ベトナムは中国に支配された歴史があるので、文化的、社会的に中国の影響を受けています。彼はそうした儒教と「士大夫(伝統的な知識人、文人)」の遺風を保った方で、家族のなかでは絶対的な権力者、長幼の礼と婦女の振る舞いに厳しい伝統的な家父長でした。筆者などは、最も若い女性のくせに待ち合わせ時間に一番遅く顔を出す無礼者でしたが、それを根気強く教育しようとなさった仁徳の人でもありました。
で、バナナの正しい食べ方。まず、爪でバナナの中央部分にぐるりと切れ目を入れる。そして、バナナの両端を持ってポッキリ二ツに折る。その後、皮を放射状に剥く。必ず5枚に剥くこと。そして、それを口に入れる。「どうだ、そうすれば手が汚れないだろう!美しいだろう!」とT氏は厳かにのたまう。確かに手は汚れません。5枚はよくわかりませんが。
最後通牒をクリア
T氏の友人で同行のM先生から、後で「あなたがバナナを二つに折って食べたから、ほっとしたわよ。ただかぶりついたらどうしようと冷や冷やしたわ」と言われ、どうやら筆者はT氏の最後通牒を何とかギリギリかわせたのでした。T氏の奮闘により、最新情報であったホイアン沖沈没船から引き揚げられたベトナム青花の名品数十点を、国立ハノイ歴史博物館で手に取って調査することができました。その後、日本でも講演会をされたほどのT氏ですが、数年後、60歳前に亡くなりました。
最近この話を若者に話したら「ええー!爪で切れ目を入れたらネイルが割れちゃうじゃないですか」と言われて、拍子抜けしました。あの時から15年以上経ち、ベトナムも変りましたから、バナナの正しい食べ方は通じないかもしれません。
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