町田万葉散歩【6】 「草戸山(くさとやま)の里を歩く」沢野ひとし
町田市の最高峰は草戸山376m。山頂からは、高尾山、奥多摩の峰々、眼下に城山湖、橋本方面とすこぶる展望が良い。あたりの林の下には境川の源流がじわじわと流れ出している。四季を通して自然散策が満喫できる一帯で町田市民に人気が高い。
里に下りてくると、水ぎわに夏など葉の並び方が扇子に似たアヤメ科のヒオウギ(桧扇)の花を見かける。初冬にその花は黒い実となり夜千玉(ぬばたま)といわれ万葉集の枕詞に多く使われてきた。
枕詞とは、たとえば「あしひきの」「ひさかたの」「あをによし」「草枕(くさまくら)」と普通は五音のものが多い。枕詞についてあまりはっきりした説明理由がなされていない。調子を整えるため、言葉を美しく飾るためと、昔の人はたくさん枕詞を歌に入れてきた。
「ぬばたま」は黒いので、「夜、夕、黒、黒髪、夢、寝」などの歌の枕詞に使われてきた。万葉集には多くの植物や花が詠み込まれてきた。万葉人たちが、植物に対して深く心を寄せていたのかが分かる。万葉植物のベスト10のうちの4番目がぬばたまで七十九首と人気が高い。実際に手に取ってその黒い漆のように艶のある実をじっくり見つめると、たしかに怪しい霊力のようなものを感じる。
ぬばたまの 黒髪変わり 白髪(しらけ)ても 痛(いた)き恋には 会ふ時ありけり
沙弥満誓(さみまんぜい)
(巻四―五七三)
(ぬばたまの)黒い髪の色が変わって、真っ白になっても、つらい恋に出会う時がある。
シニア世代になった人には、実に身につまされる歌である。
人は生きている限り恋心を持っているものだ。さらに対象は人だけではなく、花鳥風月と欲張りである。
万葉時代、農業は女性の仕事であった。男性は縄文時代から弓矢を持って山野を走りまわり、狩に励んでいた。したがって日々木の実を採取したり、植物に関して女性の方が知識が豊富であった。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |