『伊達直人』報道から1ヵ月−。 対談 知ってもらうだけで、変わるものがある −児童養護施設 成光学園 矢部雅文施設長へインタビュー
昨年暮れに報道され全国に広がった『伊達直人』などを名乗る人からの寄付。あれから約1カ月、全国の児童養護施設にはランドセルや現金などが匿名で届いているという。これは善意か流行か。児童養護施設に注目が集まる中、本紙は、座間市緑ヶ丘にある「成光学園」施設長・矢部雅文さんにインタビューを行った。
顔の見えない100万円より、手渡しのあめ玉−。
−『伊達直人』報道についてどう思いますか。
先日、当学園にも匿名の方からみかん1箱や現金が届きました。その方も、もしかしたら伊達直人やタイガーマスクなのかも知れません。
全国の施設にランドセルや現金が寄せられ、そこの子どもたちが晴れて入学式を迎えられたりすることを考えれば、とてもありがたい善意だと思い、感謝の気持ちでいっぱいになります。
しかし忘れてはならないのは、昨年末の報道以前から寄付をしてくださっている方の存在です。数年前から毎年お米を寄付される地域の方、ランドセルを毎年寄付される大手家具店の社長やプロ野球選手など、多くの方のご支援が子どもたちの糧になっています。
「継続」の必要性
平成12年の児童虐待防止法の制定以降、親からの虐待が原因で園に来る子どもが増えているように思います。こうした子どもたちは一様に大人の愛情を欲しています。大人と手をつなぎたい、抱っこしてもらいたい、顔を見て話をしたい。そんな彼らにとっては寄付も同じことが言えます。100万円のご寄付はもちろん施設運営の面で大変ありがたくとても役立ちます。
しかし、子どもの側にすると顔の見えない匿名のご寄付よりも近所のおばさんが手渡しでくれるあめ玉の方が笑顔になれるわけです。
継続的なご支援も傷ついた子どもには必要なことだと思います。当園には定期的に足を運んでいただき、子どもと接してくれる方も多くいてくださります。その度に子どもたちは満面の笑みで心を開きます。全国の「伊達直人」さんによって多くの子どもが助けられているでしょう。願わくばこうした善意が(寄付の内容に関わらず)継続的なものであってくれればありがたいです。
「どんどん見てほしい」
−そもそも児童養護施設とはどういう施設ですか。
児童福祉法第41条に基づいて、親の疾病や失踪、離婚、死亡などで保護者を失った18歳までの児童、また虐待を受けている児童などの家庭に代わる場所です。職員との信頼関係を基盤として規律ある健全な生活を築き、生活指導や保育、小中高校等への通学を通じ、豊かな人間成長を図ります。
全国に児童養護施設は579カ所(昨年6月現在)、県内には28カ所あり市内には成光学園、近隣市では綾瀬市に「唐池学園」があります。成光学園には現在、2歳から18歳までの75人が暮らしています。
子ども1人につき5万円ほどの措置費が税金から支給され、措置費で園が運営されています。
−成光学園に対する地域の認知度はいかがでしょう。
平成20年から約2年間、タウンニュースに『成光学園だより』を掲載しました。様々な行事や日常生活など園の様子をあらゆる角度で発信しました。市内各地でお声をかけていただき反響の大きさを実感しました。園がどういう場所でどんな人がいて、何をしているのか。それを緑ヶ丘をはじめ多くの市民の方に知らせることができたのと同時に関わらせていただく人の数やご寄付も増えました。
多くの顔、その目的
−ところで施設長としての仕事以外にもさまざまな活動をされています。
当園を運営する社会福祉法人「成光福祉会」をはじめ、8つの社会福祉法人、更正保護法人で役員をしています。座間市では座間保護区保護司会や座間青年会議所などに関わっています。これは誰かに頼られている姿、頼られて生きる喜びを子どもたちに感じてほしいという思いからです。
読者にむけて
−最後に本紙読者へメッセージをお願いします。
児童養護施設はどこか暗く、施設の子どもは不遇といった印象を持たれがちです。タウンニュースに様々な記事が掲載されたこともあり、ここ数年でそうしたイメージも大分変わってきたと感じます。しかし、座間市は市外・県外から移ってくる方も多く、今後も情報発信をしながら地域の方に園へ目を向けていただくことが重要だと考えます。
園の子どもの中には社会に対して不信感を抱く子も多いです。彼らにとって、例えばタウンニュースのような媒体に駅伝大会で優勝した記事が載ることで喜びを感じ、『次も頑張るぞ』というモチベーションにつながります。自分たちの努力を人に知ってもらうことで笑顔になれるのです。
同じように普段から地域の方に園へ関心の目を向けていただくことが子どもたちの健やかな成長や喜びとなるのです。これからも成光学園をよろしくお願い申し上げます。
施設内を案内する矢部さん(左)
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