中小事業主・起業をめざす人へ 第3話 錯覚とビジネス システム監査人/中小企業診断士 入谷 和彦
錯覚(英:illusion)とは、感覚器に異常がないのにもかかわらず、実際とは異なる知覚を得てしまう現象のことです。錯覚には様々な種類や定義がありますが、今回はビジネスに係る錯覚「プロスペクト理論」について紹介したいと思います。
プロスペクト理論とはカーネマンによって提唱された行動経済学の分野で、不確実性下における意思決定モデルを説明するものであります。この理論の特徴として、以下の3点が挙げられます。
参照点依存性
人間はある「参照点」を参考に損得を判断していて、参照点からの変化の度合いにより、利得や損失の感じ方も変わってくることです。
例えば「100万円の株が70万円に値下がりした」事実に対して100万円で株を買った人は100万円が参照点になって、大損したと感じます。だいぶ前に60万円で株を買った人は、参照点が60万円になり、一度上がった株が少し下がったが、まだ利益は出ている、と感じます。
居酒屋で、席が空くのを待つとき、店員さんが少し長めに言って、それよりも短い時間で案内する、というのがよくあります。「15分お待ちください」と言われると、参照点が15分になるので、10分で案内されると、何だか嬉しくなります。反対に「5分お待ちください」と言われると、参照点は5分になるので、10分で案内されると、怒りの気持ちが出てきます。
感応度逓減性
損失・利益共に額が大きくなればなるほどその感覚が鈍ってくることです。
例えば、同じ2000円の値引きでも、1万2000円が1万円になる値引きに飛びつく人は多いが、7万2000円が7万円になる値引きに飛びつく人は少ない、といったことです。
損失回避性
同量の利得と損失とでは、損失の方を過大に評価し、特に損失を回避しようという動機が強く働くことをいいます。例えば消費税を税込み表示にするか税抜き価格にするか、税金を源泉徴収にするか申告制にするか、レジ袋利用者から追加金を取るかマイバッグ持参者を割引するか。
以上は、結果として支払う金額が同額であっても、心理的なハザードが異なってくる例として挙げられます。3番目の例では、レジ袋利用者から追加金を取った方が、マイバッグ持参者が増えます。
錯覚は、この他にもいろいろありますが、以上のように、人間は知覚に関する錯覚を起こす特性を持っています。そしてその錯覚が経済行動にも影響する、というのが「プロスペクト理論」です。
錯覚を悪用したものが「詐欺」です。悪用するのは犯罪ですが、例えば居酒屋の待ち時間の例のように、ビジネスにおいて、人間の錯覚を利用することは広く行われています。
皆様のビジネスにおかれましてもマーケティング手法として錯覚を利用することで、効果が上がることがあると思います。
筆者/NPOあつぎみらい21 入谷 和彦(システム監査人/中小企業診断士)※あつぎみらい21コラム「経営講座」より
☆このコーナーは中小企業診断士を中心に、県央地域の振興のために活動している団体「NPOあつぎみらい21」の協力による短期連載です。
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4月19日