推理小説「依頼人 消えたダイヤモンド」を出版した 滝本 哲也さん 綾西在住 54歳
日々積み重ね、厚み増す
○…40代から不意に始めた執筆活動。電子書籍での人気から出版が決まった3冊目はデビュー作を加筆・修正したもので、貧乏探偵の黒岩が「パリ10億円ダイヤ強奪事件」に巻き込まれ、個性豊かな脇役たちと立ち向かう。小説を書く事は「落語家と同じ。ストーリーをどんな風に、どんな視点で伝えるかで深みが出る」。表面上は「おもしろい」ストーリーだが、実はその裏側には著者の真摯な心が込められている。
〇…「国内の自殺者は年間3万人と言われています。東日本大震災の死者・行方不明者よりも多い」。複雑な表情になった。苦しさで折れてしまう人が日本には今こんなにもいる。詳細には口をつぐんだが、かつて自分にも裏切りや絶望を経験した辛い時代があった。そんな時に光をくれたのが、若かりし頃に読んだ小説の中のシーンやフレーズだった。何が響いたかは忘れたが「一度きりの人生だからやりたい事をやればいいって開き直れた」。そんな経験から人としての厚みをつけていった。主人公の黒岩は言う。「転んでもタダで起きるな。自販機の下の100円玉を拾え」
〇…激動の時代も乗り越え育った一人息子も、今春ついに父親になる。「家族ができて、一人前になって良かった。親の責務ですかね」。まもなく出会う孫の姿を想像して顔がほころんだ。家族を愛し、小説に登場してくる名脇役達は、実は家族など身近な人がモデルになっている人物が多い。セールスポイントのリアリティあるキャラクター達はその賜物。
〇…「原稿の校了はゴールではなくスタート」。読む人からすれば、その本を読んで情報に出会うことが始まり。だから常に「いまある小説はゴールではない」。ベテランの歌手がヒット曲を深みある声で歌うように、時間を積み重ね、磨いた文言で深みある表現していく。「一瞬一瞬磨いて、明日輝く」。今日の経験がまた自我を更新する。