夜の小路 ステージ求めて 横須賀でただひとりの"ギター流し"
夜の帳が下りた若松町の繁華街。まずは一軒、スナックの扉を開く。
「1曲いかがですか-」
常連客の拍手に迎えられ、自慢の12弦ギターを手早くチューニング。豊かな音色を響かせて十八番の大木信夫の「なみだの酒」を朗々と歌い上げると、カウンターの中にいた年配のママさんが、なぜだか涙ぐんでいた。
飲み屋街をギター片手に歩き、歌や演奏を披露する”流し”と呼ばれる職業がある。隆盛を誇ったのは昭和30〜40年代。横須賀でも80人位は存在していたというが、今や”カズさん”(本名非公表/64歳)ただ1人。「儲けのためなら、とっくにやめてるよ。16歳からこの道一筋。聞いてくれる人に歌を届けたいだけ」。かつて一晩で2〜3万円あった稼ぎも、今は多い日でも半分に満たない。受け入れてくれる店の数も激減。カラオケの登場で居場所を失われた格好だが、「時代の流れには抗えない」とどこか達観している。
レパートリーは2800曲もある。昭和歌謡と戦前・戦中の軍歌が専門。カラオケにあるような流行歌は知らないし、興味もない。「人々の記憶の中にしかない歌だからこそ(自分が)演る意味がある」と頑なだ。
馴染みのママさんですら本名を知らない。自分の生い立ちなどの無駄口を一切叩かないからだ。謎めいた雰囲気がまた、この街に良く馴染んでいる。この生活はいつまで? と尋ねると「のどが枯れるまで」と即答が返ってきた。”カズさん”はむき出しのギターを抱えて今夜も小路を歩いている。
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「ピンクリボン」チャリティー講演会4月23日 |
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