「幕末を旅する村人 −浜浅葉日記による」を上梓した民俗学研究者 辻井 善彌(ぜんや)さん 芦名在住 84歳
日記の中に本音の歴史
○…市井の民俗学研究者として、三浦半島の庶民の暮らしぶりを調べ尽くしてきた。誰の目にも懐かしい農漁村の風景を写真とともに紹介する書籍をこれまで多数執筆。シリーズ4作目となる近著は、本人いわく「最後のもの」。江戸後期から明治中期まで、3代にわたって書き継がれた浅葉家の農民日記をよりどころに"旅"に主眼を置いてまとめあげた。
○…黒船・ペリー来航から近代化の先駆けとなった横須賀製鉄所の歴史は、数多の資料とともに後世に語り継がれている。翻って当時の(西地区の)庶民の生活はどうだったのか−。文献として残されているのは、全6集から成る「浜浅葉日記」のみ。太田和の一村民であった浅葉仁三郎の備忘録から、それをうかがい知ることができる。平成3年に行われたこれの翻刻作業。中心となった故鈴木亀二氏を手伝いながら、興味を深めていった。一般に江戸時代の農民の生活は窮屈で抑え込まれている印象だ。移動も制限されていたはずだが、多くの民が年中行事として旅行に出かけていたことが記されていた。「建前ではない本音の歴史が読み取れる。日記の面白さはこれに尽きる」
○…民俗学の門を叩いた30代の頃。中学・高校の教員を務めながら、研究にのめり込んだ。最初のテーマは「漁労文化」。全国津々浦々の漁村を訪ね歩き、土地ごとで異なる漁具や漁の手法を一冊の本にして発表、高い評価を得た。
○…浜浅葉日記は、後世に伝えることを意図したものではなく、気ままな書き口。最初の文はわずか1行。
元旦に書初めをしたことが記されているだけで、万事この調子だ。幕末の「食」「生活様式」「不安と恐怖」をテーマにした前3作を含め、「断片的な情報をつなぎ合せて自分なりの歴史解釈を発表している」。今の生活の原点は江戸時代にある、というのが持論。変化を含めそれを伝える一助になればと願っている。
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