舞台俳優、ひとりの人間としてさらなる成長求め――。
今夏、長年暮らした逗子を離れ、海を渡る青年がいる。久木在住の鈴木玲央さん(23)は、昨年12月まで劇団四季に所属し、舞台俳優として「キャッツ」や「ユタと不思議な仲間たち」などで出演。若手の有望株として活躍してきた。現在は劇団を離れ、留学に備えて英語を学ぶ日々。向かう先はミュージカルの本場、ニューヨークだ。遠い地での再スタート。海外での暮らしに不安もあるが「環境を変えないと自分も変えられませんから」と瞳に力をこめる。
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逗子のアマチュア劇団「ミュージカルシアター」が初舞台。元々シャイで人前に出るのも苦手な性格だったが、普段とは違う自分を演じられる舞台の虜になった。練習にも励んだが、兄が劇団を離れたのを機に自身も退団。しばし演劇の世界から離れることになる。
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転機は中学校1年生、家族で四季の「ライオンキング」を観たときのことだ。体中に衝撃が走った。舞台上で舞う役者、のびやかな歌声、表情豊かな笑顔、その全てに釘付けになった。しかし同時に感じたのは、圧倒的な悔しさ。「なぜ、僕はここに座ってる」。眠っていた渇望が目覚めた。その瞬間から四季の舞台に立つことが己の全てに。ミュージカルに必要な技術と知識を身につけるため「バレエを習わせてほしい」と両親に懇願。観劇の際はノートに役者の動作で「今の自分にできないこと」を書き出し、練習を重ねた。「高校を出たら、絶対四季に入るんだ」。もう少年に迷いはなかった。
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卒業と同時に劇団に所属。20倍以上という倍率を勝ち抜いた。受かる自信はあった。同じ受験生と比べて、「できないこと」はそう見当たらなかったからだ。長年の努力が実を結んだ。レッスンは厳しく、結果を出さねば一方的に契約を切られかねないシビアな世界だったが、夢にまで見た舞台。初舞台では家族も涙ながらに喜んだ。充実した日々に「今が人生で最高に幸せ」とさえ思った。しかし、初のロングラン公演を務めた「キャッツ」でプロの世界の厳しさを思い知る。立て続く稽古に公演、半年間休みなく働き続けると、ついに身体が悲鳴を上げた。診断は膝半月版損傷。手術が必要だった。
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天井を見上げながら、自分の将来を考える時間が増えた。「いつか四季の劇団員として舞台に立てなくなる日がくる。その時、自分に何が残る…」。リハビリを乗り越え一度は復帰したものの、頭にかかったもやは晴れない。その思いは被災地で行ったチャリティ公演で確信に変わる。「インプットが足りない。現役の舞台だけでは学べない、もっと多くのことを学ばなくては」。出した答えは本場、アメリカへの留学だった。4年間は大学で振り付けや演技の指導方法などを学ぶ。全ては表現者としての絶対値を上げるため。「帰ってきたらいずれ逗子でも舞台を企画したりしてみたい。多くのことを吸収してきます」。旅立ちを前に青年の表情は晴れやかだった。
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