逗子文化プラザなぎさホールで14日、知的障害を抱える人たちによるピアノ発表会「小さな小さな音楽会」が行われた。池子在住の成田文忠さんの主宰で今年26回目。今年は中学生から社会人まで29人が舞台に上がり、参加者らはこの日に向けて練習を重ねてきた曲を堂々と披露した。
「○番、○○○○さん」。名前が読み上げられると参加者は用意してきた曲を携え、舞台へ。曲目はクラシックを中心に民謡、ポップス、アニメなど様々。曲の難易度に差こそあれ、鍵盤を前に一様に真剣な眼差しだった。演奏後には温かな拍手が送られた。
演奏者には司会者が演奏後にインタビューし、練習の振り返りや学校や作業所など日ごろの生活も紹介。参加者の一人は演奏を終えて「緊張したけど、お母さんに見てもらえて嬉しかった」とコメント。訪れていた40代の女性は「普通なら見逃してしまうような成長を毎年感じる。今年も胸に迫る、素晴らしい演奏会だった」と話した。
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音楽会を主宰する成田さんは、ピアノ指導も手掛ける。自宅の一室で基本1人週に30分。一人ひとり障害の内容が異なるため、鍵盤にひらがなをふったシールを貼ったり、数字や色で指の動きを伝えたりと工夫しながら1年かけてじっくりと教え込む。「時間はかかるけど、障害は個性。音程やリズム感、その子のいいところを伸ばしてあげることが大事」。今年は20人を舞台に送り出した。「大変ではないかとよく言われますが、苦とは思わない。音楽が好きだから、この子たちにもそれを楽しんでほしいだけ」。何よりの喜びは生徒の成長という。
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実は成田さんは元々飛行機のエンジニア。全くの畑違いの仕事でピアノは独学だった。演奏会のきっかけは27年前。知的障害を抱える成田さんの息子がある会合で演奏を披露したことだった。「なぜこの子は鍵盤が弾けるの」。同じ境遇の子を持つ保護者らを驚かせた。成田さんが教えていたことを知ると「ぜひうちの子にも」と依頼が殺到。会社勤めをしながら、ピアノ教室を開くことになった。
「裁判官をやめて焼鳥屋を始める人だっている。まずはやってみようと思って」と振り返る。ほどなくして教室が軌道にのり「せっかくなら発表の場を」と翌年、第1回目の音楽会を開いた。
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音楽会の開催は今年で26年目。中には緊張から出演までに4年を要した生徒もいたが、今では助けなしに一人で演奏しきれるまでになった。保護者の思いもひとしおのようだ。「鍵盤に向かうことすら想像できなかった子が、生き生きと自信たっぷりにピアノを弾く。それが親にとって嬉しくないはずがない」。
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長年の活動で成田さんの活動に賛同する人も増えた。とはいえ、知的障害を持つ人に音楽を教える場は全国的にも少ないのが実情だ。成田さんも可能な限り続けるつもりだが来年古希。「自分は年でいつか出来なくなる時がくる。先生をもっと増やして、つながりを広げたい」と後進の育成に願いを込めた。
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