一色の海岸線に位置する「県立近代美術館葉山」で、1枚の壁画が訪れる来館者を魅了している。作品タイトルは「女の一生」。美術愛好家から「鎌近」の愛称で親しまれ、惜しまれながらも昨年3月に閉館した県立近代美術館鎌倉から移設したものだ。
作品は30cm四方のパネルをタイル状に並べた高さ4・5m、幅3・6mにもなる大作。薄紅色の地塗りにシルバーホワイト1色で女性の姿が描かれており、どこか西洋のフレスコ画を思わせる。元々は鎌倉館の喫茶室にあったもので、昨年7月、修復作業を経て葉山館の講堂前に設置された。
作者は洋画家の田中岑(たかし)(1921-2014)。1957年、第1回安井賞を受賞した当時新進の画家で、副館長だった土方定一(1904-80)の依頼で制作した。喫茶室はお見合いの場所として人気が高く、また依頼を受けたのは田中の長女が生まれた年でもあり、女性の幸福を願い、出会いから結婚、子どもの誕生、晩年までを描いたという。「絵を眺めていると女性への祝福や敬意のようなものを感じる。親になった当時ということも影響しているのかもしれません」と保存修復を手掛けた研究員の伊藤由美さんは話す。
経緯は不明だが、作品は制作から10年あまりで全面が壁板で覆われ、その存在が忘れられていた時期がある。2003年の葉山館の開館に合わせた改修で見つかり、11年のリニューアルオープン後に再び公開された。国内最初の近代美術館として開館した鎌倉館と歩みを共にしてきた「女の一生」。今後は葉山館の顔の一つとして新たな歴史を刻んでいく。同作品は無料で観覧できる。
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