ですます調「本文忠実に」
早稲田大学名誉教授で文学博士の中野幸一さん(85)=逗子=が執筆を重ねていた「正訳源氏物語 本文対照」の全10巻がこのほど完結した。源氏研究の集大成として翻訳に3年、出版に2年近くを要した労作。「源氏物語の素晴らしさや魅力を伝えるきっかけになれば」と話している。
読者に語りかけように書かれている原作に倣い、全巻を通じて「ですます調」で統一。源氏物語の口語訳は書き言葉の「である調」が多く、語りの姿勢を無視していることに違和感を抱いていたからだ。5年前、傘寿を迎えたのを機に執筆を開始。翻訳にあたっては何よりも本文(ほんもん)を重んじ、忠実な現代語訳に努めた。
一方、口語訳ならではの難しさもあったと振り返る。例えば第1巻「桐壷」の「御局(みつぼね)は桐壷なり」の一節。「桐壷の部屋は後宮で帝と最も離れた場所。その一文だけでも帝が桐壷に通う間、他の女性から大変な嫉妬があったと当時の読者なら想像できる。そうした”間合い”は短文の表現ならでは」
翻訳作業を終えて、改めて本文の奥深さを感じたという中野さん。「源氏物語は愛にまつわる一切の感情が描かれている」と説明する。「愛の裏にある嫉みや憎しみ、宗教観まで。人間の永遠のテーマに取り組んでいて、千年前の女性が作ったとは驚きの一言」
すでに発行されている巻は「分かりやすい」と好評を得ているといい、「源氏物語を身近に感じてもらえたら」と話した。
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