今年10月で1期目の任期を終える松尾崇鎌倉市長。3年間の実績として、真っ先に職員給与暫定削減などの行財政改革を挙げた。また市長就任1年目に打ち出したごみ焼却量削減策は、市のごみ処理の方針転換につながったと自負する。導入されれば全国初となる交通量の抑制策、「ロードプライシング」実現にも意欲を見せた。(聞き手/本紙・清田義知)
――任期も残すところ10カ月。この3年間の実績をご説明下さい。
「3つある。1点目は、行財政改革に取り組んできた。人件費の問題が一番大きい。給与の暫定削減を8月から実施した。残業代で年間2億円、住居手当は年間1億円削減させることになった。2点目は、ごみ処理に関する方針転換だ。バイオマスエネルギー回収施設を以前の計画のまま進めていたら、安定的なごみ処理ができていたのか。私としては危惧していたところだ。まだまだ道半ばであるが、その回収施設に代わるごみ焼却量削減計画に市民とともに取り組むことで、鎌倉市として安心して安定的にごみ処理できる体制づくりが進むと考えている。3つ目は、世界遺産登録の推進だ。いつになるか分からないと言われてきたが国との協働により推薦書が完成し、ユネスコへの正式推薦を果たした。結果を待つという状況まで来ることができた」
防災に市民の力
――優先順位の高い課題を3つ挙げてください。
「1つは防災、災害対応だ。市民の力・地域の力に比重を置いた取り組みを色濃くしていこうというのが基本的な姿勢だ。津波タワーなどを造るというよりも、避難経路の確認や図上訓練、市民との意見交換などを充実させることで、市民の意識や防災への取り組みの変化を促したい」
――津波タワーなどは造らず、予算を抑えたいということですか。
「決してそういう訳ではない。もちろん津波タワーを造ることは否定しないが、それよりももっと高い確率で命を守るアプローチがあると思う。鎌倉市の防災対策は、3・11以前は十分でなかったという反省を込めて、災害時に一人一人が生き残るためにどうすればよいか、そのための情報提供や訓練などを通して日頃から防災意識を持ってもらうということだ。大きな災害が発生したら行政が市民に対してできることは限られている」
――2つ目は。
「少子高齢化対策だ。待機児童対策として、この3年間で定員を300人以上増加させている。それでもまだ十分ではないので今後も引き続き解消に向け取り組む。また、長寿社会のまちづくり対策として、今泉台で地域のつながりを活性化させるプロジェクトに取り組んでいる」
――今後の少子高齢化対策をどのように進めますか。
「2つの考え方がある。1つは、これまでも進めてきた保育所や特養、老健などの施設整備だ。もう1つは、地域のつながりを重視することで少子高齢化の問題を自然と解決していく仕組みづくりだ。前者のような施設整備を中心にする考え方では市の財政は回らない。さらに単に『入居してください』という縦割りの発想のままでは、高齢者が地域から離れる要因にもなり、地域のつながりが希薄になってしまう。そうならないように後者の施策に注力していきたい。世代間の交流を深めることで高齢者の知恵を子育てや遊びに生かすなど人間力を高める。これは今までの行政が地域から人を引き離すことばかりをやってきたという反省の上に立った考え方だ」
――3つ目の課題は。
「世界遺産のあるまちづくりについてだ。庁内部局で横断的なプロジェクトを立ち上げて取り組みを進めている。これまでには若宮大路の美化活動を県と協力して実施してきた。今後も、さまざまな取り組みをプロジェクトで練っていく予定だ。また観光にも関係するが、来年度からトイレ協力店を募集する。協力店には補助金を出す制度だ。私自らも協力店を増やしたいと思っている」
自立した市民意識 求める厳しい財政状況など受けハザードマップ3月までに
――最新版の津波ハザードマップは、いつ市民に配布するのですか。また2012年3月作成の「津波浸水予想図(暫定版)」との違いを教えてください。
「今年度中に各家庭に配布することを目標にしている。暫定版との大きな違いは、津波を2パターンに分けていることだ。100年程度の周期で発生するといわれている関東大震災規模を『レベル1』、もう1つは千年周期とされる東日本大地震クラスの大規模なものを『レベル2』として、それぞれの地震による津波浸水域が分かるようになっている。その他にも津波避難空地や津波避難ビルなど、発行時点での最新情報が掲載されることになる」
――津波浸水地域以外についてはいかがですか。
「鎌倉市の場合、がけ崩れの危険性にも留意する必要がある。昨年も土砂災害のハザードマップを市民に配布した。津波対策同様にこちらも訓練を通して複数の避難経路を確認するよう呼びかけていきたい」
――市長が実施した市民との直接対話で防災に関する意見は寄せられましたか。
「『ふらっとミーティング』を市内16小学校と市役所で計17回実施した。地域の方から防災だけでなく様々な意見をいただいた。行政の取り組みが不十分という意見と、私たちはこれができますという提案と、主に2つのタイプがあった。私はこのミーティングを通して市民の皆様に、行政に頼ることからのスタートでは問題の解決は難しいという現状を知ってもらいたいと思っていた。参加者も行政も互いに気づきあえる機会になったと思う」
新焼却施設2025年頃に
――今泉クリーンセンターについて、2015年度の焼却炉稼働停止方針に変更はありませんか。
「変更はない。2015年3月までに停止することは決定事項だ」
――「ごみ焼却量減量化計画」の進ちょく状況をご説明下さい。
「今年度中に事業系ごみの分別徹底に本格的に着手する。また家庭ごみの戸別収集はモデル地区でスタートした。生ごみ処理機は目標の普及台数に達していないが、この計画は様々な施策を組み合わせて全体でごみ焼却量を減らそうというものだ。ごみの有料化や事業系ごみ処理手数料改定などを行い、2015年度までに目標を達成できると思う」
――昨年のインタビューで「新焼却炉の建設を本格的に検討する必要がある」と述べていますが、進展は。
「ごみ処理焼却施設の基本構想を本年度までにまとめていきたい。名越の焼却炉改修工事により2015年から10年ほど延命する。その間に新焼却炉の場所やどのような施設にするのか具体的なことを決め建設を進め、2025年頃には稼働させたい」
給与削減で年9億円の効果
――市は職員給与の削減を2012年8月から実施しました。その浮いた分の予算はどのように配分を。
「暫定削減で年9億円の圧縮となるが、そもそも削減した分を他に配分するというほど財政的な余裕はない。重点的に予算をつける分野としては防災や少子高齢対策などが挙げられる」
――2年間の暫定削減。その後の方針は。
「現在、鎌倉市の職員は全体的に年齢層が高く、年功序列が色濃く出た給与体系になっている。理想は責任の重い人に高い給与が配分されるようにすべきだ。そのため給与構造改革に取り組んで、あるべき職員人件費の形を目指したい」
――来年度は地方交付税の交付団体になる見通しですか。
「かなりの確率でそうなるだろう。交付団体になるからといってただちに市民生活に支障をきたすものではないが、インパクトは大きい。これは単年度でどうこうできる問題ではない」
扇ガ谷に世界遺産ガイダンス施設
――ガイダンス施設はどこに整備する計画ですか。
「土地と建物の寄付および買収を予定している扇ガ谷の用地だ。将来的には博物館を一体的に整備し、文化的発信拠点として鎌倉の魅力を勉強できる施設にしたい。大変ありがたいことに所有者のセンチュリー財団から市に15億円寄付される予定で、買収に4・8億円、ガイダンス施設整備に5億円かかるとしても5億円ほど残る。税金があまりかからない形で整備できそうだ」
渋滞解消へ規制期間拡大も
――鶴岡八幡宮周辺などに見られる激しい交通渋滞。世界遺産登録を見据え、対策はありますか。
「正月3が日に実施している車両の流入規制拡大を検討している。また通行料を取る『ロードプライシング』や車と電車を相互に活用する『パーク&ライド』をより充実させ、登録資産をくまなく回れる『世界遺産手形(仮称)』も実現したい」
――交通量を減らすことになる「ロードプライシング」は商工業者にとってマイナスでは。
「そうとは言い切れない。私は観光客が増えすぎているという認識も持っている。観光客が集中しないように、場所や時間帯などを分散するコントロールの必要があると思う。『ロードプライシング』を導入する都市は今のところ国内にはないが、京都市も検討を始めているようだ。2期目があればその任期中に実現させたい」
――年間1800万人超の観光客が訪れる鎌倉。しかし、その観光客数に対して経済効果が小さいと言われています。消費活動を促すようなアイディアはありますか。
「朝と夜の観光活性化と、古民家を活用した宿泊サービスの充実などによる宿泊客の増加を考えている」
教育長の人選「志を持つ人を」
――教育長が不在。委員が2人欠員となっています。この現状をどのように考えていますか。いつまでに人選を行う見込みですか。
「もちろん良い状態だとは考えていない。そもそも昨年の9月議会で当初検討していた人選に議会の承認が得られないとは、まったくの想定外だった。教育長には人生をかけて鎌倉の教育を良くしたいという志や熱意を持っている人を選びたい。今の教育現場を否定する意図はないが、世界で活躍する人材を育成するためには、学校の先生だけでは難しいと思う。鎌倉は人材の宝庫なので、そういった人たちと一緒に子どもを育てていく発想を持った人が望ましい。一日もはやく人選を決めたい」
――市長は政策として脱原発を支持しますか。そうであるならば、鎌倉市として具体的な取り組みは。
「脱原発依存を支持している。昨年10月には全庁的にエネルギーの対策プロジェクトを立ち上げた。照明のLED化など様々なアイディアが出てきている。また市のエネルギー基本計画も立案中で、将来的には例えばごみ処理による発電なども検討していく」
――これからの電気需要にどのように対応しようと考えていますか。
「いくら発電してもこれまでのように際限なく使っていれば原発はなくならない。やはり目指すべきは省エネだ。日本の構造的問題もあるが太陽光を使った家庭の暖房など、自然との共生が進む道だと思う」
――最後に、今年の抱負と市民へのメッセージをお願いします。
「今年は世界遺産登録の可否が審査される年。世界に誇れる持続可能なまちを目指して市政運営に取り組む。これからは行政だけですべてを解決していくことは難しいので、市民の理解・協力が必要。よりよいまちづくりのために一層の協力をお願いしたい」
――ありがとうございました。
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