「鎌倉音楽クラブ」会長を務める 吉田 よしさん 津在住 88歳
音楽の夢追い続けて
○…若手音楽家の育成を目的として、1954年に始まった「鎌倉市小・中・高学生音楽コンクール」。昨年、60回の節目を迎え、22日には過去の受賞者6人を招いた記念コンサートが、鎌倉芸術館で開催される。主催団体の「鎌倉音楽クラブ」会長を務めるのがこの人。「コンクールから世界で活躍する音楽家を何人も輩出できたことは、本当に誇らしい」と微笑む。
○…出身は新潟市。ピアノ教師だった母の影響で、幼い頃から英才教育を受けた。女学校を卒業後、念願の東京音楽学校(東京芸術大学の前身)ピアノ科に入学。一流の講師、学友たちに囲まれ、音楽に打ち込む日々を送った。しかしその前途に戦争が暗い影を落とし始める。雨の神宮外苑で学徒出陣の友人たちを見送り、東京大空襲では街が灰燼に帰する様をなす術なく見つめた。いったん帰郷し、戦後再開された同校を卒業したが「一番力が付く時に音楽が出来なかった。その空白は一生埋まらない気がします」。ぽつりとつぶやく。
○…結婚を機に鎌倉に移り住んだ。20代後半のある日、声楽コンクールで伴奏務めた際、声楽家で「鎌倉音楽クラブ」創設メンバーの一人であるベルトラメリ能子さんと出会い、同会に参加することに。2007年、会長に就任した。「会員の皆さんが優秀だから、私はお任せしているだけ」と謙遜するが、恒例となった「春のコンサート」など、鎌倉の音楽文化振興に力を尽くしてきた。
○…5月に89歳の誕生日を迎える。離婚や次男の死など、苦しい時には必ず、音楽が支えになったという。「全ての感情に寄り添い、心を満たしてくれる。音楽は私の一部ですね」。指導者としてもこれまで多くの音楽家を育てており、4月12日には門弟たちと神奈川県民ホールのステージに立つ予定だ。「好きな時に弾ける今が幸せ。体が動く限り続けたい」。様々な経験を乗り越え、これからも音楽に向かい続ける。