皇居・宮殿で開かれた「歌会始の儀」で召人(めしうど)を務めた 尾崎 左永子さん 鎌倉山在住 88歳
尽きない探究心これからも
○…「駅出でて交差路わたる人の群 あたたかき冬の朝の香放つ」―。1月14日、皇居・宮殿で開かれた「歌始会の儀」において天皇陛下に招かれて歌を披露する召人(めしうど)を務め、この歌を詠んだ。今年のテーマは人。「東京駅の電車から乗客が出てくる朝の情景を表現した。緊張したが、いにしえから続く歌の原点を感じることができました」と笑顔で話す。
○…東京都出身。文学との出会いは女学校1年生の時だった。「授業で詩を書いたら先生が大変褒めてくださって。すっかりその気になりました」。その後、飛び級で東京女子大国語科へ。歌人・佐藤佐太郎に師事し、短歌の創作を続けた。1965年には夫の転勤でアメリカ・ボストンへ。「外国に行って改めて耳から聞く日本語の美しさに気付いた」と話し、源氏物語など古典文学の研究にものめり込んだ。歌人だけではなく、放送作家、作詞家、香道研究家とその経歴は多彩。著作も多数あり、2003年には文化庁長官表彰を受けている。「調べ物をするのが好きなの」とおどけてみせるが、その原点は苦い戦争体験にある。「私たちは学校へ行っても働かされた世代。その分、色んなことを知りたいという思いは強かった」と振り返る。
○…短歌の魅力を「心と心がわかり合えること」と語る。「昔の人はただ歌っていたわけではない。その内容や言葉使い、声色からその人の性格、教養あるいは社会的地位や外見までわかったのでしょう」とその奥深さを話す。現在は「美しいことばを次世代へ」をテーマにした雑誌の主筆を務め、短歌を日本語鍛錬のひとつとして広める活動にも力を入れる。
○…77年に鎌倉山へ。自宅の壁は本でびっしりで、88歳になってもその知識欲は衰えることを知らない。「次は新しい視点から、金沢文庫を創建した北条実時について書きたいと思っているの」。その瞳は少女のように輝いていた。