ノンフィクション作品『紀元2600年のテレビドラマ』を出版した 森田 創(そう)さん 大町在住 42歳
「明暗混在の時代」描く
○…幻に終わったものの東京五輪の開催が決まり、「神武天皇即位2600年」の節目でもあった1940年。国威発揚を目的にテレビ技術の開発が押し進められ、初のテレビドラマも放送された―。このほど出版した『紀元2600年のテレビドラマ』(講談社)は戦前のテレビ開発史に光を当てたノンフィクション作品。「日本におけるテレビの歴史は戦後始まるイメージが強いが、実際には太平洋戦争の開戦前夜には、実用化目前でした」と語る。
○…プロ野球創成期を描いた『洲崎球場のポール際』を2014年に発表し、ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した。次回作のテーマを探していた際に「日本初のテレビドラマが、戦前に放送されていた」ことを知る。「ほとんどの人が信じてくれず、知られていないからこそ書きたい、と胸が高まりました」。
○…昨年3月頃から取材に取りかかったが、現存する資料はほとんどなく、関係者の口も一様に重かった。それでも初のテレビドラマ『夕餉前』に父・野々村潔が出演した岩下志麻さんらへの取材に成功。時代に翻弄されながらも、新しい技術の開発とその活用に情熱を燃やした人々の姿を生き生きと描写した。「戦前というと暗いイメージがあるが、実際には科学の進歩や華やかなファッションなど、不思議な熱気があった。明と暗が入り交じる時代の熱気を描きたかった」と噛みしめるように語る。
○…普段は大手電鉄会社のサラリーマンとして、慌ただしい日々を送る。二足のわらじを履きながらの執筆は「苦しくて何度も心が折れかけました」と振り返るが「もっと勉強して、これからも書き続けたい」と情熱は衰えない。鎌倉に住むようになったのは2004年。「小さな橋や狭い路地のような何気ない景色が好きですね」と笑う。「中世の鎌倉については知られていない事実も多い。いつか鎌倉を舞台にした作品を書けたら」と微笑んだ。