鎌倉と源氏物語 〈第15回〉 二条の恋人関東申次 西園寺実兼
「武士の都」として知られる鎌倉ですが、『源氏物語』と深い関係があることはあまり知られていません。文化薫る歴史を辿ります。
タイトルに驚かれた方も多いでしょう。しかし二条は、後深草院の寵愛を受ける宮廷の女性でありながら恋人がいました。こうした後宮の赤裸々な事実が記されているのが『とはずがたり』の凄いところです。
発端は二条が後宮の人になる14歳の時、華やかな元旦の宴席でのことでした。院が父・雅忠に盃を勧めながらこっそりと「二条をわが方に」と仰せられたのです。二条も女房の1人としてその場にいましたが、話の内容には気づきませんでした。が、その時列席していた大納言の実兼は事態を悟ったのです。
その夜、二条のもとに実兼から恋文とともに濃い紅の単衣や萌黄の上着、唐衣などの素晴らしい衣装一式が届きます。「院より先に我がものに」という実兼の素早く大胆な行動でした。二条は困惑し一旦は返しますが、再度贈られ受け取ります。この実兼の熱情が二条に波瀾万丈の人生を送らせることになります。
『源氏物語』を意識した『とはずがたり』では、装束が微妙な心理描写の小道具になっています。この衣装を二条は後嵯峨法皇の御幸の席に着て出ました。父・雅忠が「並々でない色艶のそれは院から頂戴したものか?」と問うと、二条は気がとがめながらも、親類筋の北山准后から貰ったと答えました。
実兼とは西園寺実兼。この時23歳で後深草院は29歳です。実兼は朝廷と鎌倉幕府との間を取り持ち、調整する関東申次の役職に就いていました。
織田百合子
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