平塚競輪場を主戦場とするプロ競輪選手が足しげく通う「まちの自転車屋さん」が、八千代町にある。競技用の自転車「ピスト」の修理を請け負うサイクルショップ「宮川サイクルスポーツ」(八千代町11の6)だ。店主の宮川保さん(65)が持つ修理技術は高い評価を受けているが、人気の秘けつはそれだけではないようだ。
宮川サイクルスポーツの創業は1974年7月。昭和初期に祖父が創業した「宮川自転車店」の長男として育った宮川さんが、子供用から一般車まで手広く扱っていた同店の目と鼻の先にオープンさせた。実家との差別化を図ろうと、当時流行していたスポーツ車に特化した当時では珍しい営業形態をとった。
ピストに参入したのは今から30年ほど前。当時通っていたジャズ喫茶で知り合い、懇意にしていた競輪選手に「ピストの修理や部品を扱ってくれないか」と言われた。当時、市内で競技車の修理を請け負う店はほかにもあったが、宮川さんの人柄をよく知る友人からのラブコールに押され、オファーを受け入れた。
「最大限の能力を発揮する自転車に育て上げる」がモットー。店に持ち込まれたピストは、欠損した箇所の部品交換だけでなく、各パーツのミリ単位の締め直しや細部に至る点検を経て持ち主の元へ帰る。そんな匠の技が選手の間で評判となっていった。
平塚競輪場に所属する選手は65人。うち、遠澤健二や高木隆弘など50人近い現役選手が宮川さんの常客だ。ジャズが流れる店内には、製造が終了したレアな自転車部品やピストのフレーム、ホイルが所せましと並ぶ。日ごろ、競輪選手が修理の依頼に訪れたかと思えば、「パンクを直して」と近所の子供が顔を出す。頼まれれば高齢者用の車いすだって修理する。たしかな仕事と温かい人柄をたくさんの人が頼りにしている。
宮川さんには跡取りがいない。「店をやめたら、皆困っちゃうからね」と毎週、仲間と県内をツーリング。店を続けるための体力づくりを目的に平均50〜60Km、多い時は平塚から山梨を経由する150Kmをこいでいる。「趣味だったツーリングも今はトレーニングに変わったね」
自転車はおよそ3千個の部品からなり、その一つひとつをどう組み立てるかで、自転車の性能や寿命が変わってくるという。「手塩にかけて育てる」感覚がなければ成り立たない仕事だ。「一日一日、一台一台が真剣勝負。自分の仕事を果たしていくのみ」。いぶし銀の眼差しで、今日も自転車に愛情を注いでいる。
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