「次は投げる」壁乗り越え成長 頂点まであと一歩届かず...
90kg級に登場した二見省吾君。試合前は緊張していたが、いざ畳に上がると「いい感じだ」という感覚があった。開始1分で浮落を決めて初戦を突破すると、裏投、内股…次々と技を決め、オール一本勝ちで決勝に駒を進めた。
だが決勝の相手・白川剛章君(福井工大福井高3年)には、思うように技が出せない。押さえつける組手に苦戦を強いられ、互いに指導を取り合うだけの緊迫した試合展開に。残り40秒。場外に出た二見君に指導が言い渡され、無念の反則負け。自分の持ち味を発揮できず「相手の方がゲームメイクがうまかった」と、静かに敗戦の弁を述べた。
壁乗り越え成長
”強くなりたい”その一心で相洋中に入学。結果を出せなかった中3の夏、思い切って階級を一つ下の60kg級に落とした。10kg近い過酷な減量にも耐え、全国を掴みとった。「あの時がなければ今の自分はない」。試練を乗り越えた少年は、いつしか高校柔道界を代表する選手にまで成長した。
相洋の名を背負って戦った最後の夏。今後は国体出場を控え、大学でも柔道を続ける。「自分の弱点を一つひとつ克服したい」。気持ちは前に向いている。
大会2日前、オーバーワークが祟って、ぎっくり腰になった込山龍哉君。「なぜこんな時に…」と心が折れそうになった。だが、棄権という選択肢はなかった。腰技を駆使するファイターは、感覚を鈍らせないよう痛み止めの注射も拒み、満身創痍の中、畳に上がった。
「人間って面白い」。窮地に立たされた時、人は最大限の力を発揮できるのか。「一試合ずつ自分の柔道で一本を取る」事だけを考え、強豪ひしめくトーナメントを勝ち上がった。
「次は投げる」
準決勝の相手は五輪金メダリストの古賀稔彦さんを父に持つ古賀颯人君(大成高2年)。序盤から積極的に前へ出たのに対し、相手は巧みにかわして組んでこない。互いに決め手を欠いた終盤、掛け逃げを取られた込山君に指導が告げられ、ブザーが鳴った。わずか指導一つの差。敗北の瞬間、忘れていた痛みが全身を襲い、その場に泣き崩れた。
「投げられなかった自分が悪い」。数日後の取材に、きっぱり答えた込山君。古賀君を筆頭に強豪選手と対戦する機会はこれからも多くある。「次は絶対投げます」。流した涙を汗に変え、再び黙々と稽古に打ち込む姿があった。