「一生に一度の、最高の一日でした」。穏やかな笑顔で何度も繰り返す。
特別な日となった11月13日。錦通りの老舗蕎麦店・寿庵で、社長ほか一緒に働くスタッフから、勤続45年を労うサプライズを受けた。用意された45本の真っ赤なバラと、同僚の愛情がこもった寄せ書きを手に、「健康にも恵まれ、おかげさまでここまで働いてこられました」。少し恥ずかしそうに、けれど力強く感謝の気持ちを口にした。
生まれ故郷は九州の温泉地・別府。もともと好奇心は旺盛だった。「外に出てみたい」と、箱根登山鉄道の求人に応募し、バスガイドとして初めて小田原の地を踏む。人に接する経験を活かそうと、21歳で寿庵の暖簾をくぐった。店は、人生の大切な場面にも深く関わってきた。栃木から出てきてそば職人として働いていたご主人とは24歳で職場結婚。息子に恵まれ、2人の孫の話になると、一層穏やかな顔になる。
一日5時間ほどの立ち仕事を週6日。現社長から遡り、3人の主に仕えた。その時代、時代を精一杯走り、店を作ってきた主たちと、多生の縁で触れ合ってきた仲間が宝物。仕事を終え帰宅すると、大切に育てているメダカの様子を見てから夕飯の支度に取りかかる。やはり「丈夫な体と規則正しい生活」が元気の秘訣のようだ。
まだまだ続けていけそうですね、と水を向けると「なんとか70歳まではね」。いつかのんびり旅行に行く日を楽しみに、今日も店に立つ。