今年7月から、耐震改修工事に入る小田原城天守閣。年間40万人が登城する“小田原観光の顔”に代わる、小田原の新たな魅力について、観光に携わる5人に集まってもらい、可能性を探った。
回遊ルートやまち歩きのポイントについて話した1回目、工事期間中の城の見せ方を検討した2回目に続き、今回はPRの方法について具体策を検討した。(進行/本紙小田原編集室副編集長・下村大輔)
――小田原に足を運んでもらう仕掛けとして、どのような案がありますか。
外郎 例えば、小田原市は大河ドラマを呼ぼうとしていますが、いざ「北条五代の大河ドラマが決まりました」となっても、小田原で撮れるところがない。だからまず先にロケができるところを作って「さあどうぞ」と迎える態勢をとらないと。先に作れば、たくさんの人が見に来てくれる。
ニコラ 外国人が増えても、小田原でお金を使わなければ意味がないですね。
高橋 そのための具体策がないと。
ニコラ 駐車場、Wi-Fi、英語のメニューなどが挙げられますね。
楓川 城内の駐車場は12、3台しか停まらないうえに、1日1200円と有料になってしまった。
高橋 1時間1200円と同じですね。ほとんどの人は1時間しかいないので、クレームが来ています。
外郎 そういうハードを充実させないで人を呼ぼうとしてもね。
高橋 お城のことは、行政なしには進みません。一緒にやらないとできませんし。
外郎 今している話は、実現してもお金がかかる。半年間やもう少し、それを逆手にとって街を売り出そうという企画を、我々が頭を寄せ合っても、結局は先立つものが必要で、その先立つものが来年には倍になって返ってくるよ、と来年度予算で出費してもらう。そうしないと、お金は出ない、なんとかしましょう、というだけでは、精神論になってしまう。
小澤 耐震化で閉城する9カ月間で、いい街並みをつくりましょう、と言っても無理。最低限度、あまりお金がかからなくて活性化できる方法として、私はシャトルバスを走らせたらいいと思う。漁港はいますごく人が来ていて、活気がある。そこに来ているお客さんを、そのまま帰しちゃうか、街なかに連れてくるか、一夜城まで運ぶか。小田原駅から、大外郭も含めて漁港から一夜城まで回るくらいのシャトルバスだったら、市も補助金を出せるかなと。今は春と秋だけ走らせているんですよね。
楓川 そうですね、春と秋で20日間ずつ。
小澤 利用したお客さんはすごく喜んでいますよ。いろいろなサービスが付いているんです。元がとれるサービスがたくさんあるのに、周知が下手。絶対に利用者がいると思う。街なかを走るバスも減っているし、お年寄りの利用者は増えている。観光客だけでなく、市民も利用できます。
外郎 さまざまな店舗がこの期間だけサービスで協力することもできますね。新たな小田原の魅力の紹介にもなるし。
――それを小田原市街にPRするにはどうしたら効果的でしょうか。
楓川 「まち元気おだわら」に先頭に立ってもらうとか。チラシはたくさん作って、あちこちで配っているとは思いますが。
日帰りで来られる「小田原の魅力」
外郎 鎌倉・藤沢エリアで発行している「湘南よみうり」という媒体と、小田原・湘南特集を企画したら、その方面からのお客さんが驚くほど増えました。清閑亭と、他にも2、3カ所紹介したら、編集者がツアーを組んで。神奈川県東部や東京から日帰りで来られるところを実は知らないようで、そういう場所を狙って特集を組めば、来てもらえることが分かりました。
高橋 やはり伝えないと。小田原に来ても地下街に人が入らないのは、知らないからですよね。
外郎 なんで藤沢に受けたかと考えたら、「今日天気がいいから行ってみようか」で来られる距離だから。箱根までは遠いが、小田原なら電車で4、50分。明るいうちに回って帰れます。
――来るだけではなく、お金を落としてもらえる仕組みが重要ですね。
ニコラ 外国人の観光客を見ると、欧米人は2万5000円で観光、買い物している。一方中国人は12万円。中国人は電化製品など、買い物をするために来る。
外郎 入城無料券を配っても2、3割は来ない。なにかの副賞として配るとか。
小澤 忍者が配ったら来ると思う!
ニコラ そうですね。
外郎 耐震工事の黒いヘルメットとTシャツは、請負費から出してもらうとか。請負条件として”忍者の格好”など、やるからには中途半端はだめ。徹底的にやらないとしらけてしまうと思う。だからやる側も「僕は忍者だ」と思うくらい、真剣にやってほしい。ただの耐震工事がメディアに紹介されたら間違いなく話題になる。
外郎 小田原の商人たちも普段、甲冑武者の格好をして「いつでも戦国時代」って、小田原駅に降りたら駅長も甲冑を着けているくらいの気持ちがいいと思う。
小澤 私たちは、忍者まつりのときに黒いズボンと忍者の格好で協力しました。マイナス面をプラスにという発想には賛成です。
ニコラ 観光協会にはすでに提案をしたのですが、小田原の祭りはいつもお城の広場が会場。街にはまったく影響がない。例えばレストランなら、キャンドルナイトディナーの替わりに(提灯まつりの時に)提灯ライトディナーをやるとか。
高橋 祭りがちゃんと融合していない。街なかで認知されて、やって良かったね、というような形にはなっていない。
ニコラ ヨーロッパでは、クリスマスの時期になると、窓辺にろうそくを並べていて夜はすごくきれいです。LEDを使って窓の中に提灯を飾るのなら、誰にでもできる。20万人のうち1万人が実行すれば、街の見た目は随分変わってくる。そうすれば、ほんのちょっとのお金でできます。
高橋 提灯だったら、本当にできるのでは。
ニコラ 私は3年前に都内から小田原に引っ越してきました。最初の印象は、”なにもない”。東京に比べると、レストラン、喫茶店、遊ぶ場所がない。なんにもない印象で、だんだんと穴場が分かってくると、とても面白い。観光客に紹介される店は、いつも同じですね。観光バスで来る人はあまりお金を使わないし、小田原のいい素材を知ってもらうには、もう少しグルメの人に来てほしいです。
高橋 最近では、料理人でも小田原に興味を持つ人が増えました。以前は小田原の人だけを相手にして店を出しても成立しないという風潮があった。小田原は家賃が高いし、おいしいものが他所からやってこない。だけどちょっと変わってきているかも知れません。
ニコラ 面白いところはいろいろあるんですが、探さないと見つけられない。地元の人は自分のためにとっておいている印象です(笑)
小澤 フェイスブックとかね、つぶやいたことがバーッと広まりますもんね。
――市民の力で発信していくことも必要ですね。
小澤 他所から来た人が「小田原のここがいいね」って言うのはすごく参考になる。私たちが当たり前のように思っていることを褒めてもらえると、気づきや再確認につながることがありますね。
高橋 小田原城にだけ頼らないで観光の発展を進めるには、まずベクトルを決めること。小田原の魅力がいまいち外に発信されていないと感じるところは、行政の力も必要だが、市民の力も必要なんですね。
外郎 商人がある程度発信していかないといけないですね。あとはメディア。メディアに、小田原を上手にPRするための企画、協力をしてもらえたら。いいところを探し、穴場を探して紹介するとか。
楓川 ロケ地の案も、発信としてはいい策ですよね。
小澤 宣伝用、撮影用の武家屋敷という案ですか?
外郎 張子でもいいと思うんです。ブームが過ぎれば壊すくらいの感じで。そのための用地として確保しておかないと、いざという時に”ここは使えません”となる。10年以内に大河ドラマを呼ぶというビジョンがあるなら、10年間はその土地に手をつけないとか。新幹線が停まるのだから、山梨や栃木より、人を呼べる。ただ、ロケ地としての誘い水がもう少し欲しい。「城下町・小田原」と言うが、城下町、どこにありますか?魅力あるものを残しましたから、皆さんでつなげてください、というのが行政と民間のタイアップできるところ。それがもうなくなっちゃったけれど、みんなで集客するイベントを考えて下さいでは、できることが限られちゃう。小田原は500年前、関東の覇者だった。そこにあるものを少しでも長く持たせるということは、我々の使命。それが子孫に残す資産だと思う。お金がないなら、場合によっては、後から作ればいつでも作れるものと、今残さなかったら二度とは残らないものと、時代的な優先順位をぜひ考えてほしい。
高橋 小田原市民がもう一回ちゃんとお城に上ってみて、感じるところを掴んでほしい。周囲に障害物がない城なんて他にないから。
外郎 箱根山に相模湾。丹沢山があって、本当に殿様気分が味わえますよね。
高橋 一夜城からも小田原城がちゃんと見えますよ。一夜城に白い幟でも3つ4つあると、陣があるような雰囲気になりますよね。小田原にお城が2つあるというのは貴重ですよ。
小澤 こんな近い場所にお城が2つ、そんなところ他にないですよね。そうすると2つのお城に行きますよ。
外郎 工事で幕を被せるなら、森の中に城があるように、緑の幕にしてほしい。それこそ工事が終わる時に、秀吉にあやかって一夜城みたいに、木を切ってお城が現れました!みたいな。
――実現したら面白い、貴重なご意見をありがとうございました。
【了】