年間2回ある猫の発情期のうち、一つのピークが2〜4月頃。本格的な出産シーズンを控え、野良猫に避妊・去勢手術を受けさせる活動などを行う動物愛護団体「おだわらねこ」(入内嶋(いりうちじま)学代表)も忙しい日々が続いている。
2月12日夜8時前、早川エリア。入内嶋さんらメンバーは手慣れた様子で、次々と餌を入れた捕獲器を仕掛けていく。活動は人気が少ない夜間。引き上げも早朝に行うのが通例だ。
匂いに誘われ、近寄ってきたのは1頭の白猫。耳の先端がカットされているのは、すでに去勢手術を受けたことを示す印だ。「人懐っこいから、誰かに飼われていた猫。明日の朝には、またこの捕獲器に入っているでしょうね」
それまで自費で猫の保護活動をしていた入内嶋さんが、2014年に立ち上げた「おだわらねこ」。現在は10人がボランティアとして所属し、むやみに増えて処分される不幸な命を減らそうと、TNR活動(トラップで捕獲して去勢・避妊手術を施し、元の場所へ戻す)を行う。その多くは地域からの依頼によるもので、実施した数は昨年4月から約150頭に上る。
手術費は動物病院により異なるが、日本獣医師会の調べによると、平均は去勢が約1万2600円、避妊が約2万円。同団体では、協力店舗などに設置した募金箱から回収したお金や寄付金で費用を賄い、不足分は会費で充当している。
このほか、身勝手な理由で飼えなくなった子猫を預けられることも多く、その数は年間約200頭。「見捨てられない」と里親が見つかるまで飼育するが、餌代はメンバーの持ち出しに頼るのが現状だ。
補助制度は条件付き
入内嶋さんは一昨年4月、野良猫の去勢・避妊手術費用に関する補助金を求めて署名活動を実施。市内外から1万6168人分を集め、市に陳情を提出。その結果、昨年度の新規事業には補助金が盛り込まれた。
だが、補助は1人につき1頭で、手術後に「自身で飼育すること」の条件付き。すなわち、TNR活動は対象外で、同団体も補助金を活用できず、「野良猫を減らそうと活動している人には利用しづらい制度」と嘆く。
同様の制度について、横浜市では飼い主の有無に関わらず予算内ですべての猫に実施。野良猫のみ対象とする平塚市では、手術後の対応は「動物愛護の精神に基づいて」との表現にとどめ、1人あたりの頭数は定めていない。
小学生の頃に何度も転校を経験し、環境の変化に馴染めず学校を休みがちだった時期の心の支えが近所の野良猫で、以来、動物好きになったという入内嶋さん。補助金をもらっていると勘違いする市民からの誹謗中傷や、「去勢・避妊手術は道徳心に反する」と批判を受けることも日常茶飯事。だが、「最善策とは思わないが、最悪な状況を回避するには手術しかない」と苦闘の日々が続いている。