94歳のアマチュア画家杉崎稔さん(市内国府津在住)が、4月12日(水)から本町のお堀端画廊で個展を開催する。会期は17日(月)まで。富士山を題材とした作品を中心に、約20点の油絵を展示する。
「絵を始めたのは19歳の頃。理由は覚えていない」。当時、日本は太平洋戦争の真っ只中。杉崎さんは海軍に入隊するも腕に怪我を負い、4カ月で除隊となった。
その後、警防団員として務める傍ら、人目を避けるように楽しんでいた絵画。入手困難だった絵の具を求め、下北沢まで赴いたこともある。「宝石のように見えた」という絵の具は、物資が不足していた戦時下で貴重だった鮮魚と物々交換。だが、軍国主義者だった父親に見つかると、「そんなことをしている時代じゃねえ」と、外に放り投げられてしまったという。
終戦を迎えると、半月後には仲間と3人で展覧会を開催。「堂々と絵を描ける時代がきた」と、洋裁業を営みながら次々と作品を生み出し、52年には県勤労者美術展で『漁夫』=写真下=が労働文化賞を獲得。その後も数々の賞を受賞するなど、独学ながらもその腕前は高く評価された。
描くのは主に風景画。絵の具が何層にも塗り重ねられ、淡いタッチが幻想的な雰囲気を醸し出す。「謡曲の世界が絵筆に乗り移ってくることがある」と能楽師の師範でもある杉崎さん。「自分の心が入らないと、絵は単なるモノになってしまう。描くというより、表現する感じ」と、作品づくりに対する思いを語る。
山梨で製作活動
仕事を引退後も、精力的に続けていた製作活動。だが90歳を目前に控えた頃、妻のフサエさんが認知症を発症。介護に追われ、絵筆を握ることもなくなった。
昨春にフサエさんが他界。深い悲しみから、油絵を再開する気にはなれなかった。だが、そんな様子を心配した息子たちに背中を押され、5年ぶりに向かったキャンバス。すると、「たまっていたものが、バババーッと噴き出してきた」と、絵筆を動かす手が止まることはなかった。山梨県の山荘に毎月通い、富士山を題材に半年間で描いた作品は約10点。「目標をもって描いてほしい」と、息子たちが個展を企画したという。
御年94歳だが、背筋はしゃんと伸びて動作も軽快。「寺の古びた壁の風合いが波や人に見える。そんな時、描きたいなあって」と、意欲は再び高まっている。
開催時間は午前10時から午後6時(最終日4時)。観覧無料。(問)お堀端画廊【電話】0465・23・7819
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