小田原版 掲載号:2017年5月6日号

足柄刺繍、糸と技術の輝き 文化

上田菊明さん、11日から作品展

 積んだ経験が仕事に生きる職人の技。生家が営む縫箔(ぬいはく)の道に入り、間もなく70年の上田菊明さん(84)が、5月11日(木)から28日(日)まで、南町の清閑亭で作品展を行う。

 明治末期から昭和にかけて小田原近隣の一大産業だった縫箔は、刺繍と摺り箔を用いて装飾する技術。上田さんは着物やガウン、スカーフなど輸出品の生産に多忙を極めた家業に幼少期から触れ、小田原第三尋常高等小学校を卒業後、15歳で本格的に刺繍を始めた。

 「人気があったのはやっぱり富士山や桜なんかの日本的な柄と鮮やかな色合いだったね」。父や兄に倣って腕を磨く日々。肉入れ(あらかじめ芯となる部分を縫い立体的に見せる手法)や糸のぼかし染めなどの特徴を持つ自身の刺繍を、「足柄刺繍」と名付ける。横浜シルク博物館や松永記念館など県内各地での作品展をはじめ、ドイツやフランス、スペイン等の美術展にも出品、数々の入選を果たした。

妻・康子さんとの日々

 5年ぶりとなる小田原での作品展。前回と大きく異なるのは、60年連れ添った妻が傍らにいないことだ。父のもとで刺繍を学んでいた康子さんとは21歳で結婚。高度経済成長期の終焉と時を同じくして、家業は翳りを見せ始めた。時代の流れとともに消えかかる技術を守ろうと、33年前、一般の生徒に足柄刺繍を伝える「縫の会」を立ち上げる。「口べたで、教えるのは内心楽しくなかった」という上田さんと生徒の橋渡し役に徹した康子さんは、生徒たちから慕われた。

 糟糠の妻が少しずつ記憶に支障をきたし始めたのは2007年ころ。頻繁に鍋を焦がすことに異変を感じて病院へ。認知症の診断を受け、在宅介護が始まった。「一緒に苦労してくれたんだから当たり前だよ」。抱きかかえてトイレに連れて行ったり、さじでおかゆを口元へ運んだ日々を、「そばにいるだけで楽しかった」と、目じりにぎゅっとしわを寄せて振り返る。

 介護中、自身もうつに見舞われた。それでも玄関先で、「気を付けてお帰りなさいよ」とヘルパーを見送る妻の存在に慰められながら、6年間を過ごした。妻が眠る隣の部屋で刺繍針を持つこともあったという。13年1月、翌日からギャラリー城山での作品展が始まるという日に康子さんは入院、2カ月後に永眠した。今でも陽が落ちると、ふっと淋しさがこみ上げる。きれいに整えられた部屋で上田さんは月に6回、生徒に刺繍を教えている。

清閑亭に18点ハルネと天守閣でも

 50号の額3点を含む作品18点が並ぶ「足柄刺繍 上田菊明の染と繍展」は清閑亭で午前11時〜午後4時(火曜は休館)。問い合わせは清閑亭【電話】0465・22・2834へ。

 なお上田さんの作品は、小田原地下街のハルネギャラリーと小田原城天守閣2階にも展示されている(ハルネは5月22日(月)まで)。
 

足柄刺繍 上田菊明の染と繍展

2017年5月11日〜2017年5月28日

11:00開始 〜 16:00終了

神奈川県小田原市南町1-5-73

費用:無料

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