小田原版 掲載号:2017年9月2日号

現代美術展「小田原ビエンナーレ2017」に参加している

栗原 昇さん

栄町在住 69歳

解き放たれる情熱

 ○…不規則に並ぶ板に描かれた電柱、そこから伸びる電線は絵を飛び出し四方の枠につながる――。新作「電柱」シリーズを含め、市内で開催中の現代芸術展「小田原ビエンナーレ」に初参加。「こんなことをやっている人は小田原ではあまりいない」。絵画、彫刻、版画、造形…創作に挑み続けてきた静かなる情熱が孤高の眼差しに宿る。

 ○…島根県で生まれ、高校教師だった父の転勤により4歳で小田原に。チャンバラと同じように遊びのひとつが絵だった。小学1年生で絵を習い始め「デッサンのリアルな表現に魅了された」。高校1年生の時に父が病気で亡くなる。人生と向き合い始める時期に「頼りたい存在がいなかった」。何になりたいか分からないまま迎えた3年の冬、東京教育大学(当時)芸術学科の受験科目にデッサンがあることを知る。それから正月返上で3カ月間、石膏像を紙に描き続けた。「描いている時は一切の悩み、苦しみから解放された」。悩み続けた青春に光が差した瞬間だった。

 ○…大学の友人に連れて行かれた美術館で「ヘンテコな作品を見て衝撃を受けた」。それが当時国際的な潮流だった現代芸術との出会い。それから美術、映画、文学などに浸り酒を飲みながら新しい芸術論をぶつけ合った。卒業後はアパレルメーカー勤務を経て、定年まで小田原城北工業高校と神奈川工業高校でデザイン科の教員として教壇に立ちながら作品発表を続けた。

 ○…27歳で結婚し1女を育て上げた妻とは6年前に死別。「見合いとしてはうまくいった方。今思うと美人だったかな」とぶっきらぼうな言葉にも愛情をにじませる。現在1人暮らし。月に数回都内に出かけ、孫に会ったり映画や画廊を見たりしてから、版画を新たに学び直すための講座にも参加している。「大衆に入っていくのは難しい、逆に迎合しない方が良いのかもしれない」。現代芸術への挑戦は今なお継続中だ。

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