特別展「湖底に沈んだ三保のふるさと」に水墨画を提供している 野地悌(てい)子さん 山北町出身 67歳
思い出は胸の奥に
○…花が好き。特に白い花が好きだという。なかでも白いマーガレットが一番だが、夫からもらったバラの花束が「一番だった」という。自宅の庭には夫と行った長野で買った白花ホトトギスが見ごろを迎え、今年もまた思い出が色濃くなる時期を迎えた。花言葉は「永遠に、あなたのもの」。20年にわたる義父母の介護をやり遂げたが、翌年には夫にすい臓がんが発覚。わずかひと月半で看取った。
○…丹沢湖ビジターセンターで12月14日まで開催中の特別展「湖底に沈んだ三保のふるさと」に、ダムの底にあった三保の風景を題材にした21点の水墨画を提供した。2011年のある日、実家の落合館(山北町神尾田)に一冊の写真集が届き、それを機に故郷を描くようになった。懐かしい故郷を描くうち「津波で家を失った東北の被災者と自分の記憶が重なった。『懐かしい』だけじゃ済まない。『知らなかった』でも済まない」。そんな思いが胸の奥にある。
○…1946(昭和21)年、山北町三保の生まれ。企業庁勤めの温厚な父と旅館(落合館)を切り盛りする母、祖母に育てられ、高校卒業と同時に三保中学校の事務職員に採用された。嫁ぎ先は国府津。やがて1男2女に恵まれ、子育てと同居する義父母の介護に追われる日々が長く続いた。そんななか「息抜きになれば」と通い始めたのが水墨画教室。「明るい気持ちになりたい」とフラワーアレンジメントも習い、水墨画の題材には好んで花を描いた。
○…国府津と山北でフラワーアレンジメントの教室を開く。生徒は20人。水墨画では今も指導を仰ぐ先生がいて、作品へのアドバイスも幾つか受けた。3人の子はそれぞれ家庭をもち、5人の孫に恵まれた。夫がいない毎日を過ごして6年、「今がいちばん充実している。主人の分まで長生きしたい」。そんな風に言えるのも「水墨画とフラワーアレンジのおかげ」だという。