清水地区最後の専業茶葉農家になった 細谷 善國さん 山北町谷ケ在住 68歳
「ときめく」思い茶葉に
○…「この時季になると胸がときめく」。お茶の豊作を祈る献茶祭であいさつした。県内に500軒近くある足柄茶の生産者を代表する茶葉運営委員会委員長を5年前から務めている。「今年はどんなお茶になるのか」、「美味しく飲んでもらえるか―」。お茶にかける思いがにじみ出る。「しっかりと肥料を蒔いて良く育っても、加工次第で変わってしまう。手間はかかるけどそこがおもしろい」とお茶栽培にのめり込む。
○…山北町谷ケで4人兄妹の長男として生まれ、チャンバラごっこやメンコでわんぱくに遊んだ。谷峨駅からSLで山北高校に通い、明治大学農学部に進んだ。会社勤めするつもりが、友人に「自分でやった方が面白い」と勧められ家業を継ぐことにして静岡の茶葉試験場で研修を受け、父と一緒に畑に出た。1年間愛情を注いだお茶を収穫し、最初に飲む一杯には毎年「心が震える」。足柄茶品評会には26回入賞、5回の優等受賞など逸品の出荷者としても知られている。
○…自宅にファックスされる映画情報を夫婦で心待ちにしている。お目当ての映画があると車を走らせ映画館で肩を並べる。畑があり長く家を空けられず、旅行にも行けない日々だったが、8年前に息子が家業を継ぎ人出が増えたことで、畑を任せられるようになった。昨年は夫婦で長野に旅行へ出かけることもできた。「やっぱり継いでくれるのはうれしいね」。最盛期には「2人の娘も手伝ってくれる」と誇らしげ。
○…これまで背中を追ってきた父が3月に他界した。「普段は優しいが仕事には厳しい父だった」という。近ごろは簡単に飲める手軽なお茶の需要が増えているが「お茶は急須でも飲んでもらいたい。せわしない世の中だからこそ心を落ち着かせ足柄茶を飲んでもらいたい」と繰り返す。「ひと手間を惜しまず、楽しむ余裕が重要」お茶の収穫期は間もなく。今日も茶畑で惜しみなく愛情を注いでいる。