県の優良小売店表彰を受けた箱根湯本の和菓子店「ちもと」店主 杉山隆寛さん 風祭在住 38歳
察する、感じとる、職人肌
○…レトロで地味な外観の店舗はその昔、人力車の待合室だったらしい。耐震工事でも面影を残すことにこだわった。箱根町民で「ちもとの湯もち」と聞けば、白く上品な柚子が香り、ぽってり柔らかい食感が思い浮かぶ人も多いだろう。創業60年を越えると、馴染みのお客さんだった人の子や孫という人も変わらぬ味を求めてやって来る。接客で心がけているのは、気づく事。「前に来た」という一言は聞き漏らさない。いかに「察するか」にこだわる。
○…湯本育ち。観光地らしく、友達の親も寿司屋や旅館で接客をしていた。湯本では運動会に参加できない大人も多かったが、一人ひとりが全ての子どもたちの親のようだった。職人たちと襖一枚隔てて同居し、家にはきまって黒砂糖の甘い香りが立ちこめていた。覚えているのが職人たちの手際と段取りの良さ。蒸し、練り、片づける、仕事をパズルのように組み合わせ、最短距離をゆく。「一生懸命な大人を見ていたから、グレなかったんでしょうね」。
○…9歳で父を亡くし、25歳の時に母が他界。店を継ぐため勤めていた生保会社を辞め、新宿区にある和菓子の専門学校に入った。小さい頃から和菓子に親しんでいたせいか技術が体にしみこむようだったという。わらび粉を延すだけでも、生産地やその日の湿度によって水の加減が違う。体の感覚も研ぎ澄まされていった。「機械は間違うことがあっても、手のひらの感覚は間違えないんです」。
○…趣味は食べること。食べたいものが見つかれば、新幹線に飛び乗り京都まで足をのばす。材料屋やお茶屋にも顔を出す。仕事とプライベートはあえて線をひかない主義だ。エネルギー源は、愛娘のさくらちゃん(1歳)。おんぶして一緒に店頭に立つことも。将来お店のタスキを受け取ってくれるかどうかは分からないが、店内をきょろきょろと眺めるのが好きらしい。「自分のガキの頃と一緒」と笑みがこぼれた。
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