湯河原「十五夜の宴」で琴を弾き続ける 二見 道子さん 湯河原町門川在住 73歳
いつまでも主役のために
○…湯河原「十五夜の宴」の会場で琴を響かせ早10年。涼風に揺れるススキとともに、会場に欠かせない存在だ。今年は井上陽水の「少年時代」や「月の砂漠」など幅広い年代が楽しめる曲を準備している。実は幕山で開かれる梅の宴などにも出演しているが、あまり名前は知られていない。季節の訪れという主役を引き立てるため、あえて影に徹するかのよう。
〇…どことなく言葉のイントネーションで分かったが「わたし、大阪のおばちゃんなのよ」。実家は大阪の金型工場。3歳で終戦を迎え、初めて喋った言葉は「ビィ、ニジュウク」だった。贅沢のできない時代に11歳から琴の教室に通い始めた。母・八千代さんが戦時中から我慢していた音楽の夢を託されたらしい。様々な師匠に出会って腕を磨き、21歳で生田流師範に。今では地元イベントをはじめ、大きな琴を抱えて関西まで演奏に出かけている。
〇…着物姿での演奏はなかなかハード。指を温めたり詩吟の発表会で数時間弾き続ける事も。漢詩を写したノートには注釈がびっしり書き込まれ、抒情を演奏に溶かし込む苦労が窺えた。それでも「でしゃばらないように音を入れさせてもらう」のがこだわり。ある介護施設での演奏が忘れられない。お年寄りが涙し、認知症の人が歌い始めた。周りは止めようとしたが、そのまま歌ってもらった。
〇…稽古場は湯河原駅近くの自宅。靴脱石の鎮座した玄関には花が生けてあり、戸にはめこまれたガラスが水面のように透け、温泉場のようなレトロ感が漂う。趣味で漬けたという梅干を出してくれた。病身でもある夫・勉司さんのために塩分は控えめ、柔肌のように上品な仕上がりだ。「これを食べたら、もう他のは食べられない」という言葉が嬉しくて仕方ない。箱根の知人の紹介でお見合いし、40年以上前に越してきたのがこの家。木目の浮かんだ柱が、何かを磨き続けた人生を物語っている。
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