県道740号線沿いの一角で花を咲かせる 牛田 秀貴さん 真鶴街岩在住 65歳
小さな「きれい」に全力
○…真鶴の山側、旧道沿いの町有地の一角で花壇を手入れしている。作業中は水でもかぶったように汗だくだ。かつては雑草や竹が生い茂り、テレビなどが打ち捨てられていた場所。4年前に花を植え、一帯の草刈りや側溝の土砂掃除などを人知れず続けた結果、捨てられるごみは随分減った。
○…熱海駅前の八百屋の、7人きょうだいの末っ子として生まれた。「花好き」は母・アエさんゆずり。生花をたしなんでいたため、家中花だらけだったという。「盆栽や箱庭づくりも上手でね、木や家の模型を使って田舎の風景を作ってましたよ」。そういえば例の花壇は大きな箱庭にも見える。趣味が遺伝したのか。
○…高校を卒業後に家業を手伝い始めたが、パチンコやマージャンにも没頭してしまう。見かねた母がある日、買い物先で「息子を使ってください」と直談判、熱意が通じたのか都内の百貨店に就職が決まった。青果コーナー配属となり、バナナのたたき売りや市場での買い付けなどに汗を流した。数年後に転職し長年の夢だった大型免許を取得。「トラックの運転席は視線が高くて見通しも良くて、楽しかった」。全国を駆け回るうち、気づけば帰宅が週1回になっていた。
○…現在は小田原のタクシー会社でハンドルを握る。その後、母は認知症になり、家を留守にできなくなった。徘徊は沼津におよび、警察からも電話が来る。母を怒ってしまう事もあった。寂しげに「一人ぼっちにしたのがいけなかったのかな」。母が亡くなり8年。夜勤の仕事中に認知症らしい人に出くわす事があるが、そんな時の対応は慣れたもの。優しく行先や自宅などを聞き出し、家族に連絡する。
○…様々な人を乗せて走るうち星空は白み、酒匂川に出ると朝焼けの富士が美しい。夜勤明けはきまって車を洗う。「次の人に引き継ぐ車だから真冬でも念入りにね。『だらしないのはダメ、きれいにしろ』これも母の口癖だった」
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