箱根湯本地域の夏の観光イベントで毎年琵琶を演奏する 水野 賢世さん 箱根町塔之澤・阿弥陀寺住職 73歳
出会いを求めて奏でる
○…箱根湯本の喧噪も届かない森の中で10年以上、参拝客などに琵琶を弾き続けてきた。バチをとり、「チャン、ギン、トシャン」と譜面を呟きながらかき鳴らす。演奏中は正面を向きながら、その両目は別世界を見ているよう。毎年湯本の夏の行事に出演し、観光客を幻想の世界にいざなう名物和尚としても知られる。
○…生まれは平塚市の寺。「お釈迦様」「良寛さん」といった本に囲まれて育ったせいか「人に尽くす坊さんになれ」という父の言葉が目標となった。阿弥陀寺との出会いは運命だったのかもしれない。24歳の時、箱根散策の時に訪れた当時の建物は荒れ果て、本堂の仏像はホコリと雨漏りにさらされ泣いているように見えたという。意を決して掃除に通い、その後住職として後を継ぐことに。
○…とはいっても檀家はゼロ。食料やプロパンガスを担ぎ込み、食べてゆくために芸妓衆に習字を教え、托鉢した日々も懐かしい。「小田原の農家の方に野菜を頂いた時は、リュックが重くてね」。寺の屋根修理や参道の整備を重ねるうちに次第に参拝客も檀家も増えていった。睡眠時間が1日4時間となった50代の頃、本堂前で倒れてしまう。
○…住職としての仕事を見直さねばならなくなった。ある檀家を訪ねた時に1つの壊れた琵琶と出会った。それを借りて教室に通い始め、レコーダーで師匠の音色を録音しては繰り返した。生活の糧にするつもりだったという。特訓のせいで指が思うように曲がらないが、6年前に日本琵琶楽コンクールで優勝した。
〇…有名人から出くわした泥棒まで様々な人々に教えを説いたが、数年後にこの地を去るという。次代の住職探しは難航したが、やっと後継が現れた。今準備しているのが湯本の森の「琵琶花御堂」。そこで演奏しながら「人々と出合い、人生の苦楽を語り合いたい」。僧侶としての原点に戻るべく山を下りて再び山の中へ。Ⅴ字の道が待っている。
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