湯河原温泉「おかみの会」の代表を務める 深澤 里奈子さん 湯河原町土肥 42歳
「宿」の原点 追い求め
○…約20年の歴史をもつ「おかみの会」。名前の響きから想像していた女将像とは一風違う白いジャケット姿が新鮮だ。観光PRや御見送り活動、オリジナルジャム作りなどでも知られる同会だが、最近になって乳がん手術経験者が気軽に温泉に入れるよう、女将たちの手で各旅館に専用の浴衣も準備した。「前会長から始まった活動を、もっと進めたい。来週は横浜のピンクリボン活動に行ってきます」。軽やかな出で立ちは旅館から外へ、打って出る意気込みの象徴か。腕に巻いた赤い糸も印象的だ。去年アジアの国・ブータンを旅し、田舎に滞在した際、寺院で巻いてもらったという。何かの魔除けかと思いきや、その逆。「たとえ怒りをもった人でも、受け入れて融和できるように。そんなお守りだそうです」。
○…地域に根を張る旅館に生まれ育った。「昔はお客さんも家族みたいで。よく『帰ったよ〜』って声が響いてました」。忙しい大人たちを見て育ったせいか、小さい頃から掃除や配膳も苦にならなかった。小田高を経て中央大に進み、家業のために経営や会計を専攻。26歳にして3代目女将を継ぎ、同時に「おかみの会」に入った。忘れられない思い出といえば、以前会長を務めた故・平野洋子さん(旅荘船越)のスピーチだ。「会の目的は湯河原の観光に貢献すること、とはっきりした口調だった。こんな人になりたいと思った」。
○…それから15年、いま改めて「宿」という言葉を見つめ直している。身の回りに自動化した家電品が増え、便利に身を任せて良いのか、疑問視するようになったという。「至れり尽せりだけが宿じゃない。本来の生きる力を取り戻す場なのでは」。3人の子のお母さんで、自宅では先々代の女将(90歳)とも同居中。戦後を生き抜き、硬いものでもバリバリ美味しく食べ、どんな悩みも聞き取ってくれる懐の深さ。愛おしい自慢のおばあちゃんは、宿が目指す何かに重なっている。
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