伊豆箱根鉄道(株)が17日、箱根エリアで初となるムスリム向けのツアーを開催した。ムスリムはイスラム教を信仰する人を指し、世界人口の4分の1を占める。ムスリムの多いインドネシアやベトナムの訪日客も増加するなか、国際観光地・箱根の受け入れ態勢づくりはこれからといった状況だ。モニターとなったのは東京農大のアフガニスタン出身留学生ら19人。箱根園水族館や十国峠などを巡り、箱根関所橫の「旅物語館」ではスタッフたちが礼拝の環境づくりなどをサポートした。
伊豆箱根鉄道が箱根で初開催
同社でのムスリム向けツアーは2年前に熱海の十国峠で開催しており、これまでに豚肉やアルコールなどを一切使わない特製メニュー「忍者」(2160円)を開発した。1週間前の予約が必要だが、問合せは毎月1〜2度来るという。食堂では通常アルコールなどを扱っているため、予約時にはその旨を必ず説明する。献立は天ぷらやサバの塩焼き、まぐろのカルパッチョや果物など、ほぼ通常の和定食と変わらない。醤油はアルコール不使用の認証ラベルつきで、七味唐辛子やふりかけなどは念のためテーブルから取り除き、万全の態勢でツアーを出迎えた。ランチが始まると続々と「おいしい」の声が。特に学生たちが頷いていたのは手製の献立解説書。イラストと英語で原材料が分かるせいか、安心した様子。「この原材料は?」と唯一指さしたのは、細切れの油揚げだけだった。
ムスリムは毎日5回定刻に礼拝するため、その環境はホスピタリティに直結する。今回課題として見えたのは礼拝前の「洗浄」だった。手や鼻、腕や足などを流水で清める必要があり、洗面台では位置が高かった。旅行中の礼拝は回数を減らす人もいるが、欠かさない人もいる。宗派で洗い方も違う。こうした習慣に困惑せず、いかに柔軟に対応できるかが、企業側の力の見せ所だ。旅物語館では食堂の一間をドアで締め切り、静かな空間を用意した。関所付近から見たメッカの方向は、裾野や富士とほぼ同じ。5分ほどの礼拝が終わると学生たちは晴れやかな表情でバスに乗り、次の目的地へと向かった。
礼拝や食など、あまり知られていない生活習慣については、観光庁の「ムスリムおもてなしガイドブック」が分かりやすい。観光庁HPに掲載されているPDFも参照を。