下大槻地区に古くから伝わる郷土料理「ヤキビン」。小麦粉を練ったなかに餡を入れて焼く料理で、一時期作り手がいなくなり、その味を知る人が少なくなってしまった。「このままでは伝統の味が途切れてしまう」と、同地区長寿会(黄木義雄会長)の会員有志約15人が10年ほど前から子どもたちや地域住民に作り方の指導を行っている。
名称の由来は不明だが、発祥は江戸時代と伝わる。同地区の健速神社例大祭に合わせ各家庭でヤキビンが焼かれ、神社に奉納したあと家を訪れた親戚や客に土産として持たせるのが慣わしだった。神輿渡御の際には担ぎ手に食料として持たせたこともあった。今でこそ小麦粉の中に卵や牛乳をまぜ、甘い餡を使用しているが、当時は小麦粉と水、餡だけの素朴な味だった。
第二次世界大戦が始まり、祭りの中止とともにヤキビンは焼かれなくなったが、終戦後1947年頃に復活。1950年代頃まで戦前と同じように各家庭で作られていた。高度経済成長期に突入すると同時にヤキビンは影を潜め、家庭ごとに所持していた金型も押入れの奥へと追いやられた。
時代が流れ、ヤキビンを幼少期に食べていた世代が孫を持つ年齢になり、「子どもたちにもあの味を、自分たちの住む地区の歴史を伝えなくては」と立ち上がったのが同長寿会だった。
健速神社の巴紋と同じ二つ巴の形をした金型を購入し、約10年前から再び例大祭時に焼き始めた。夏休みには広畑小や大根小の児童らを集め、同社境内で作り方の指導を行っている。子どもたちからは「おいしい。作るのが楽しい」と好評だそうだ。黄木会長とさかえさん夫妻は2人でヤキビンの指導にあたる。「おじいたちだから教えられることがたくさんある。これからも子どもたちと触れ合いながら指導したい」と話した。
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