横浜市内でも最大震度5強を記録した東日本大震災。当時を知るASA(朝日新聞販売所)綱島(港北区)の現所長・野田猛徳さんに、10年前の街の様子を聞いた。
混乱の日々
一つ目の困難が「明かり」。当日も地域によっては停電となり、野田さんの父親がいた日吉の営業所も電力を失った。早朝の配達に向け、深夜の作業が欠かせないのが新聞配達業。明かりには配達用バイクのライトを使って折り込み作業をした。街からも明かりは消え、街灯のない真っ暗な道を走った。「当日は帰宅する人々で溢れ、翌日からはほとんど誰もいなくなった。異常な光景だったよ」という。
もう一つ街から姿を消したのが「モノ」。いつも朝食を買っていたコンビニの棚は空きだらけ。なかでも一番の悩みの種はガソリン。給油可能なスタンドを見つけると、こぞって行列に並んだという。ガソリンが不足しそうな店舗があった時には、「燃料満タンの予備のバイクを走らせ、帰りの分だけギリギリ残して届けたこともあったよ」と苦笑する。
混乱は、発災から2カ月近く続いたという。そんな異常な世界で求められたのは”いつも通り”。配達が遅れれば、事務所の電話は鳴りっぱなし。いかに情報が求められているか実感した。しかし震災の影響は変わらず、「セールの広告を入れたが物流の影響で中止になり、スタッフ総出で配達直前に大慌てでチラシを抜いたこともあった」と回想する。
「社会で大きな出来事が起こった時は、新聞に求められる役割がより大きくなると思う」と野田所長。「掲載記事を通して、情報だけでなく勇気や元気も届けられるはず。それは今も昔も変わらないこと。今後も、どんな時でも、いつも通りに紙面を届けていきたいね」と10年前を想起しながら語った。
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